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今度こそ! 今度こそばっちり受け取りましたぜ日原さん!
おいがしい中、おつかれさまでした!
そして今回の話でついに登場するのはもう一本の『心渡』。
こうして物語における材料がついに出そろうことになります。
ではではいってみましょうぜ!
こころソード012
おいがしい中、おつかれさまでした!
そして今回の話でついに登場するのはもう一本の『心渡』。
こうして物語における材料がついに出そろうことになります。
ではではいってみましょうぜ!
こころソード012
僕は過去に、怪異を狩ることを生業とする人々に出会ったことがある。
ドラマツルギーは仕事として。
エピソードは私情のために。
ギロチンカッター使命の元に。
理由はどうあれ、彼らの目的は怪異だ。怪異だけが目的だ。
それ以上でもそれ以下でもなく、純粋に怪異だけを標的としている。
それが普通だと思っていた。彼らは、精神構造や価値観がどうであれ、一般の人を巻き込むことを是としてはいなかった。関係者であったとしても、怪異に直接関わりがないのなら、事故でも起こらない限りはきっと手を出すことはしなかっただろう。
それなのに。
左右非対称の双子は、怪異退治の専門家と自称するホワイト・リリィとブラック・サレナは、合法的に人を殺すために怪異を退治する。怪異を狩ることが目的ではなく、人を殺すためのただの過程として、ただの手段として怪異を退治するのだと宿木先輩は言う。
「そういう事だ阿良々木。冷たいことを言うが悪いことは言わない。これ以上関わるな」
射殺すような光をたたえ、宿木先輩は僕の目を睨みつけてくる。
宿木先輩の言うことも思っていることも考えていることも。その全ては僕のためだということは分かっている。
今までに関わってきた事と今回はレベルが違う。それは理解している。分かっているけれど――だからこそ関わることを止められない。ここで退く訳にはいかない。
あの左右非対称の双子は怪異に関わった人間を殺す。怪異を逃したことはあるけれど、関わった人間の抹殺率は百パーセントだと。
仮に、だ。
僕がホワイト・リリィとブラック・サレナから逃げ、身を隠したとしよう。そうしたら――あの二人はどうする?
彼女達の目的は『心渡』だ。それを手に入れるために深空ちゃんと高海ちゃんに危害を――いや、遠回しに言っても仕方ない。きっと殺すだろう。拷問じみたことを行うかもしれない。深空ちゃんと高海ちゃんが何も話さなかったとしたら、間違いなく灰色姉妹は僕を――キスショットと『心渡』を探すだろう。この街を徹底的に、容赦無く。
そして、きっとその途中で彼女達は見つけ出す。嗅ぎつける。それは僕でもキスショットでも『心渡』でもなく――怪異と出会ってしまった人々を。
蟹に行き遭った戦場ヶ原ひたぎに。
蝸牛に迷った八九寺真宵に。
猿に願った神原駿河に。
蛇に巻き憑かれた千石撫子に。
猫に魅せられた羽川翼に。
狐を宿した宿木都子に。
そしてきっと、ホワイト・リリィとブラック・サレナは――怪異退治と称して彼女達を殺す。
躊躇無く、この世の正義のために。そして何よりも自分達が楽しむために。
そんなことがあってはならない。させるわけにはいかない。
ああ、と思う。僕はいつからこんなふうに考えるようになったんだろう。怪異に出会って、怪異に関わって。僕の人間強度は強くなったのか弱くなったのか。それは分からない。分からないから――僕は思ったように行動しよう。例えそれが、美しくはあっても正しくない行為だとしても。
僕は宿木先輩の視線を真っ正面から見据え、
「僕は――」
「むう! もう限界だ!」
宿木先輩は小さく唸るや否や、僕の頭をいきなり平手で力いっぱいにはたいたのだ。え、ちょ、何?
この理不尽な暴力は!?
「お前がいけないのだぞ!? お前がもたもたしてるから、今日一日分のシリアスポイントを全て消費してしまったではないか!」
「ではないか! て、僕が何をしたっていうんですか!? それに考えてた時間は三十秒くらいですよ!?」
憤慨し、こちらを指差す宿木先輩に僕は言い返す。シリアスポイントがどういうものか――まあ、大体想像はつくけれど――知らないけれど、一分も保たないなんてどんだけ量が少ないんだよ。
「あーあ、阿良々木のせいだからな。私はこれからの一日を全ておちゃらけたお茶目なギャグキャラで過ごさないといけないではないか。大樹神社の巫女さんは清楚でクールでしっかり者の美人さんだとご近所でもっぱらな評判だと言うのに。阿良々木のせいでがらりと評判が変わってしまうのかぁ……あーあー」
非難がましい目を向け、上半身だけで奇妙な踊りをしながら口を尖らせる宿木先輩だ。そうすることでギャグキャラを演じているんだろうけれど……ぶっちゃけそのキャラ付けはどうなんだろう。
「まったく、阿良々木は勿体付け過ぎだ。周りから何を言われたところで自分のやることを変えないくせに、揺れているふりをする。本当に面倒くさい」
踊るのを止め、腕を組んでしたり顔で言う。
「ファイヤーシスターズといいお前といい。この兄あってのあの姉妹。間違い無く火憐と月火の兄だよ、阿良々木暦は。似た者兄妹だ」
くっくっく、と愉快そうに喉の奥で宿木先輩は笑った。宿木先輩の物言いや感じるところに納得のいかないものはあるけれど、そんなことを言及したところで考えを改めたり言った事を訂正したりするような人でないことは、もう十分すぎるくらいに知っている。だから僕は何も言わず、ただ黙っていることにした。ツッコミ担当を自任している僕としては、ちょっと負けてる気がしないでもないけれど、それはあえて無視の方向で。
それを肯定と取ったのか、それとも次の話への促しと取ったのか。宿木先輩は「ふむ」とひとつ頷きを入れると、手元にあった刀を僕へと押し出すように差し出してきた。
「そんな正義を行おうとする阿良々木に餞別だ。お前達の名付けるところの『心渡』。それのもう一振りだ」
今回の事件の、間違いようの無いくらいに中心となるもの――『心渡』。
それがどうしてここにあるのか。そして『心渡』とはなんなのか。それらを知ることは重要で、きっと外せない案件だ。
期待するような目を向ける僕に対し、宿木先輩はことさらゆっくりとお茶を取り、口を付けて軽く唇を湿らせた。
「お前達が『心渡』と呼ぶこの刀には名前が、れっきとした銘がある。それは――」
焦らすように間を置いて、宿木先輩は厳かに、巫女だけに神の託宣を告げるような口調でその銘を口にした。
「双子刀『鈴鳴』」
ふたごとう、すずなき。
それが『心渡』の本当の銘。
「斬る時に鈴が鳴るような音がした、というのがその名の由来らしいが、まあ、今回においてはさして重要なことではない。重きを置くは双子刀という部分か」
宿木先輩はちらりと深空ちゃんと高海ちゃんを横目で見、それから視線を戻して言葉を続けた。
「双子とは言っても、そこの美少女双子ちゃんのように同じものを作ろうというコンセプトで製作されたわけではない。元々が一本だったから双子刀と呼ばれていたんだ」
『心渡』は全長が二メートルくらいある。これだけの刀を打つのに、どれくらいの原料が必要なるのか分からないけれど、少なくとも元となった刀は人が振るうには大きすぎる代物だったんじゃなかろう
か。もしかしたら斬馬刀とかかもしれない。
「元になった武器は薙刀さ」
僕の疑問に答えるように宿木先輩は言い、続ける。
「武蔵坊弁慶は知っているな?」
「え? ええ、まあ。昔話レベルですけれど」
不意に尋ねられ、反射的に頷いた。
確か、刀を千本集めようとして九九九本まで集めたんだけれど、締めの最後に牛若丸の刀を狙ったら返り討ちにあって、最後には彼の家来になってしまう人だよね?
小さい頃に読んだ絵本を思い出しながら僕は言う。宿木先輩は小さく頷き、
「そうだ。その弁慶が使っていた薙刀『岩融(いわおとし)』が双子刀の材料だ」
宿木先輩の話はこういうものだった。
弁慶があの有名な立往生をした後、『岩融』はふたつに折れたのだという。刀狩りのなか、何百人という武芸者と戦ったにも関わらず壊れなかったのにだ。その後、奥州藤原氏の一人が密やかに回収し、弁慶の強さにあやかろうとある刀鍛冶に打ち直しさせたのだと言う。
「こうしてこの刀は世に生まれたんだが……出来上がった刀はとんでもなく欠陥品で、どうしようもなく鈍だったんだよ」
「なまくら? 全然斬れない刀なんですか?」
『心渡』はあまりに切れ味鋭いために『怪異殺し』となったんだよね?
なんか、話が食い違ってない?
僕の疑問に、宿木先輩は首を横に振って応えた。
「お前は知っているはずだ。どういう欠陥かをな。全くの逆だよ。――斬れ過ぎる故に鈍なのさ」
宿木先輩はひとつ息を継ぐ。りーん、と髪留めの鈴が小さく鳴った。
「刀というのはな。何でもかんでも斬れればいいというものじゃない。ある種の制約があるのさ。試し切りのひとつに、川の中に立ち、流れとは逆になるように刃を垂直に立てて上流から藁を流す。その藁が刃に当たった時。斬ると思った瞬間に斬れるのが名刀と呼ばれる条件でもある。だが、出来た刀は触れた瞬間に藁を斬ってしまうどころか、川底を流れてきた小石すら斬ってしまった。本田忠勝の持つ槍は穂先に止まった蜻蛉が真っ二つになるほどの切れ味を誇ったというが、はん。『鈴鳴』はそれと同等
以上の切れ味だということさ」
そういうもの、なんだろうか……?
僕は日本刀で物を斬ったことなんて、それこそ持ったことすら無い素人だけれど、斬れ過ぎるというのはそんなにも良くないことなんだろうか。『心渡』のように物を斬ると斬った側からくっついてしまうというのならまだしも、きちんと「斬れて」いるのなら、そんなに重要視する事でもないと思うのだけれど。
「ふん。阿良々木。納得出来ず釈然としないという顔だな。まあ、お前の思うところも分からないでもない。武芸のぶの字も知らないお前だからな。だから、そんなお前に分かりやすくこう聞こう」
宿木先輩は僕の表情を見てそう言うと、指を一本立て、出来の悪い弟に勉強を教える姉のような顔をした。
「刀というものは抜き身のままで持ち運ぶものなのかな?」
「そんな危ない事はしないですよ。鞘に入れて――」
答えた僕の、舌の動きが不意に止まる。
その時になって、僕はあるひとつの事に思い至ったからだ。
まさか――その刀はそれほどのものだったという事か?
宿木先輩は僕の動揺を見て取ったのか、満足そうな顔で頷いた。
「ようやく気付いたようだな。その通り。この双子刀は納めるべき鞘さえ斬ってしまう業物なのさ」
「でも、そんな。これはちゃんと鞘に入ってるじゃないですか」
僕は思わず目の前にある刀を指さしていた。これはどう見ても抜き身には見えない。
「これは持ち運ぶ事を考えず、刀を納め、安置するだけという条件の元、鉄と鉛と銅線を用いて作った特別仕様の特注品だ。持ってみれば分かるがクソ重いぞ。訓練ならまだしも、常日頃から脇に差したり出来るもんじゃない」
そして、宿木先輩はふう、と少し残念そうに息を吐いた。
「当時にこの切れ味を活かせる使い手がいれば呼延灼の『水竜鞭』『炎竜鞭』。陰陽の剣『干将』と『莫耶』と並ぶくらいに有名な、対となる武器として名を残せたのかもしれないというのに。それが御神刀として厄介払い同然に神社に奉納されてしまうのだからな。惜しいものだ」
宿木先輩は腕を組み、うんうんと頷くと、ふっと顔を上げた。
「まあ、それも今日までか。巡り巡ってようやくまともに扱える者の手に渡ったのだからな」
そう言って。
宿木先輩は試すように僕を見るのだった。
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