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日原さん! お忙しい中ご苦労様でした!! 力のこもった作品、感謝ですぜ! 続きを書く僕にプレッシャーを与えてくれちゃってこの野郎メっ。
とにかくこれにて三周完了!
ハラハラドキドキの『起』もおわり、こっからは『承』の始まりです。
それではいってみましょーか。
日原さんの、内なるエロスが垣間見られる第九話!
『こころソード009』!!
とにかくこれにて三周完了!
ハラハラドキドキの『起』もおわり、こっからは『承』の始まりです。
それではいってみましょーか。
日原さんの、内なるエロスが垣間見られる第九話!
『こころソード009』!!
吸血鬼の治癒能力、回復能力、再生能力について。
僕はそれを文字通りに身を持って、骨身に染みて経験しているし、それに加えて人を治すことすら実践している。
だけど、それは「こうすればこうなる」という現象と結果を知っているだけで、「どうしてそうなるのか」という仕組みと原因を知っている訳じゃない。
羽川を治した時は、あの決定的に破壊された傷口に僕の血を流し続けるという、乱暴とも言える処置を施して事なきを得た。そのことを知っていた僕だから、キスショットが今まで蓄えてきた力を、治癒のために全部注ぎ込まないといけないというのはどうも納得がいかないのだ。
「程度が違うんじゃよ」
尋ねると、キスショットは面倒そうにそう言った。
「うぬがあの非常食を治したというのは『傷』であろう? 言ってみれば足りなかったのは『身体のパーツ』。壊れた部品を治した。それだけに過ぎんよ」
けどの、とキスショットは言葉を続ける。
「あの二人に決定的に欠けていたもの――いや、尽きかけていた、という方が正確じゃな。それは『生命力』じゃ。『魂』と言い換えてもいいかもしれん。生命の根源たるそのものが無くなりかけておった」
九割方死んでいる、とはそういう意味だったのか。外傷云々ではなく、純粋な、文字通りに命の問題。どんなに迅速に処置を施そうとも、生命力そのものを補充しない限りはどんな名医だって助けることは出来ない。
「なるほど。だからあんなにも大げさだった訳か」
僕はついさっき行われたキスショットの『治癒』を思い出す。
エロかった。
その一言に尽きる。
淫靡というほど猥らでも無く、官能的というほど綺麗でも無く、エッチというほど軽くも無い。
まさしくエロい。
キスショットがどうやって双子の二人を治療したかについてを具体的に話すのはやぶさかではないけれど、ひとつ思い出して欲しいことがある。
僕は羽川の――これといった特徴のないパンツを四ページにわたって描写する男だということを。
そんな僕がキスショットの治療シーンを、今も目を閉じれば鮮明に浮かんでくるあの神秘を語ろうものなら、これからどれだけの文字を、ページを、容量を費やすことになるのか想像がつかない。あれはこの話を彩るエピソードであって、決して主軸のものじゃない。だから事細かに話すことに意味は無いし、必要も無いことだ。それにもし、あれを話したらただでさえアニメ化が難しい出来事ばかりある今までに加え、より一層ハードルを上げてしまうと言うか、年齢制限のあるアニメになってしまいそうだ。
本来なら、さっきのことは僕だけのマイメモリー、青春の一ページとして心に留めておきたいところだけれど、全く話さないというのも都合が悪いから困ってしまう。だからかいつまんで短く話そう。
キスショットはまず、血まみれ血だるまの双子の一人に跨った。そしてそのまま腰を落とし、マウントポジションを取るような体勢になる。そしてそのまま彼女の着ているズタボロの法衣を一気に引き裂いたのだ。ドキリとした僕だけれど、血に濡れた肌を見た瞬間に瀕死であることを強く実感してしまう。
「キスショット……本当に大丈夫なのか?」
不安になる僕に、キスショットはこちらを見ず、指先を双子の頬に置きながら真っ赤な舌を出して口元だけで笑った。
「儂が助けると言ったのじゃ。うぬはそこで黙って見ておれ」
そうしてキスショットは――その舌先を血まみれの双子の胸元に這わせたのだ。
「……っ!」
思わず僕は息を飲む。だってあれだよ!? 目の前で豪奢なドレスの美女が半裸の美少女に覆いかぶさって、胸元から首筋へむかって真っ赤な舌で舐めあげてるんだよ!? もしかして僕は、ちょっと男子禁制な薔薇のなんたらとか姉妹(スール)がなんたらとかの禁断っぽいシーンを目の当たりにしてるんじゃないの?
「うーん、あのままだと風邪をひいちゃうね」
横合いから不意に聞こえた呟くような声に、僕はビクッとして慌てて振り向いた。
そこでは羽川が、顎に手を置きながら何やら思案するように首を傾げていた。
「阿良々木くん。ちょっと買い物に行ってくるね。四十五分くらいで戻ると思うから」
さらりと言って身を翻し、教室を出て行こうとする羽川に、僕は慌てて待ったをかけた。
「外はそれなりに暗いから僕も一緒に行くよ。荷持ち持ちも必要だろうし」
羽川を心配しているのは事実だけれど、あのキスショットの治療シーンは目に毒なような気がする。いや、見たくないわけではないよ? ただ――そう、ただ、なんか僕の求めるものと方向性が違うというのかレベルが違うと言うのか。そういう意味での見ちゃいけない感を感じているのだ。そしてもし……キスショットがあの美少女の眼球を舐めるなんてことになったら――僕は……っ!
「阿良々木くんはここにいないと駄目だよ。もし何かあったときにあの人たちを守らないといけないんだから」
やんわりと、たしなめるように羽川は柔らかく微笑んだ。
「それに……私がいないほうが色々と都合がいいでしょ?」
ちょっと待て! それは一体どういう意味なんだ!?
「あははははは。冗談だよ。でも、エロスはほどほどにね」
愕然とする僕に、何かあったら臓物をぶちまけられるんじゃないかと思わず考えてしまうような言葉を残し、羽川は手を小さく振りながら教室を出て行った。
それからきっかり四十五分後。
羽川は背中に、八九寺ほどではないけれど、それなりの大きさのリュックを背負って帰ってきた。
その時には双子の治療も終わっており、キスショットは「久々に疲れることをしたもんじゃのう」とか言いながら肩を揉んだり、首を鳴らしたり、身体の筋を伸ばしていたりしていた。
左右線対称の双子の治療は完全に終わった。あんなに血まみれだった身体には、今はもう傷ひとつすら残っていない。尽きかけていた生命力をキスショットから分け与えられた双子は、半裸のままで深い寝息をたてて眠っている。傷を治癒するためのエネルギーは彼女達の体力のため、それを回復するために少なくとも丸一日は眠り続けるらしい。
僕はと言えば、なんというかニヤニヤが止まらない。羽川の手前、それを必死に抑えようとするのだけれど、どうしてもあの光景が脳裏から離れない。キスショットさん、ご馳走様でした。
「浸ってるところを悪いんだけどね、阿良々木くん。双子さん達の着替えするから、ちょっと出て行ってもらえるかな」
床に降ろしたリュックから着替えやタオルや毛布やペットボトルの水やらを出しながら羽川は言ってくる。その声がどことなく平坦で冷たく感じたり、僕のほうに視線を一度たりとも向けてこないのは作業を優先しているからだよね……?
「ああ、すまないけれど任せるよ」
それだけ言って、僕は廊下へ出る。それにキスショットも続いた。
「話しておくことは五万とあるな」
よっこいせ、とか言って廊下に胡坐をかくのは絶世の金髪美女にして最強の吸血鬼としてどうなんだろうと思わなくもないけれど、大人な僕は何も言わずに近くに腰を下ろすだけなのであった。
話すことは五万とあるし、聞きたいことも山盛りだ。
まず、これからどうするか、だ。
ホワイト・リリィとブラック・サレナ。白と黒の、左右非対称な双子の怪異退治の専門家。
彼女達の目的はキスショットの『心渡』だ。それを奪取するために、キスショットを完全に殺して潰せる『装備』と『武装』を揃えるために撤退していった。それの準備にどれだけかかるのか。もしかしたらそれは明日には、ううん、今のこの瞬間に現れても全然おかしくない。時間は本当にないのだ。その短い間に僕達に――僕に何が出来るのだろう……
「まあ、焦ることはないじゃろうよ」
僕の不安を見透かすように、キスショットは悠然とした態度で欠伸をかみ殺した。うわ、本当に緊張感がないなぁ。今はもう、僕とそうたいして力は変わらなくなっているはずなのに、その余裕は一体どこから出てくるんだろう。
「あやつらは怪異退治の専門家じゃ。それゆえに吸血鬼退治の準備には時間がかかるじゃろうよ。しかも必殺を期そうというのなら尚更じゃ」
「でも、吸血鬼だって怪異のひとつなんだろう? そんなに手間なんか掛からないんじゃないのか?」
最強の怪異のひとつである吸血鬼と言ったって、それ自体が怪異であることに変わりは無いのだから、そんなに時間が必要だとは思わないのだけれど。
「うぬは根本的な誤解をしておらぬか?」
キスショットは目をすがめ、やれやれと言いたげに息を吐いた。
「確かに吸血鬼は怪異のひとつに違いない。じゃが、だからと言って他の怪異を倒せる方法が通用するかどうかはまた別問題じゃ」
「どういうこと?」
「怪異には共通の弱点がある。例えば、『怪異である』ということそのものがすでに弱点であるようにな。だから『心渡』は必殺となり、儂は怪異殺しなどと渾名される。じゃが、それは儂が強くて強くて強くて美しい故に成立するもの。言わば裏技じゃ。けれど、これは必ずしも人間には当て嵌まらない」
ふふん、と豊かな胸を張りながらキスショットは続ける。
「怪異には怪異になっただけの、怪異と呼ばれるに至った経緯がある。そこから逆算して退治の仕方を組み上げていくのが通常じゃ。そして数多ある怪異のそれには法則性があり、そこから全てに有効な退治法を抽出し、武器とするのが怪異退治の専門家じゃ」
分かりやすく手短で乱暴な説明じゃがな、と付け加えるキスショット。
「じゃが、そういう公式が通用し、必殺となる怪異は広く多くいる故に押しなべて弱く低級じゃ。上級種には致命傷にならん。死霊に聖水は覿面に効くが、儂には肌が焦げるくらいの威力しかないように、な。そして儂が相手なのじゃ。並みの対吸血鬼用装備では話にもならん。だから相当気合の入ったものを揃え、万全を期す必要がある。ホワイトとブラックとやらの背後にどんな組織があるのかは知らぬが、明日明後日ではそうそう揃えられんだろうの」
キスショットが言うことが本当なら、それなりに時間はあるということなのだろう。なら、その気合の入った装備や武装に対抗し、打ち破るだけのものをこちらも用意しないといけないことになる。僕にでも扱えるような、そんな都合のいいものなんてあるのだろうか? ここで特訓するようなことになるのかもしれない。
「だから『心渡』のオリジナルじゃよ」
キスショットはさらりと言う。
「前に従僕に見せたものは儂の作った再構築したものになるがの。もっとも、元々の『心渡』も無銘の刀を素材にしてあやつが……一人目の眷属が己の血肉で作り上げたものじゃがの」
ほんちょっとだけ、キスショットの声音に寂しさみたいなものがよぎった。だけれど、僕はそれに気付かないふりをして、いつものように言葉を作る。
「素材にしたんなら、もう残ってないんじゃないのかよ」
「確かに。素材にしたものは残っていない。だが、『心渡』はもう一振りある」
「もう一振り?」
「そうじゃ。日本刀には真打と影打があるじゃろう? 数本打った中で一番出来の良い物が真打。残りが影打じゃな。真打を客に渡し、影打を手元に残すのが一般的じゃ。この『心渡』の素材がどちらかは知らぬが――それの素材となった刀が手に入ることは強力な武器となる。――対人間用のな」
そう言って、キスショットは獰猛に笑うのだった。
僕はそれを文字通りに身を持って、骨身に染みて経験しているし、それに加えて人を治すことすら実践している。
だけど、それは「こうすればこうなる」という現象と結果を知っているだけで、「どうしてそうなるのか」という仕組みと原因を知っている訳じゃない。
羽川を治した時は、あの決定的に破壊された傷口に僕の血を流し続けるという、乱暴とも言える処置を施して事なきを得た。そのことを知っていた僕だから、キスショットが今まで蓄えてきた力を、治癒のために全部注ぎ込まないといけないというのはどうも納得がいかないのだ。
「程度が違うんじゃよ」
尋ねると、キスショットは面倒そうにそう言った。
「うぬがあの非常食を治したというのは『傷』であろう? 言ってみれば足りなかったのは『身体のパーツ』。壊れた部品を治した。それだけに過ぎんよ」
けどの、とキスショットは言葉を続ける。
「あの二人に決定的に欠けていたもの――いや、尽きかけていた、という方が正確じゃな。それは『生命力』じゃ。『魂』と言い換えてもいいかもしれん。生命の根源たるそのものが無くなりかけておった」
九割方死んでいる、とはそういう意味だったのか。外傷云々ではなく、純粋な、文字通りに命の問題。どんなに迅速に処置を施そうとも、生命力そのものを補充しない限りはどんな名医だって助けることは出来ない。
「なるほど。だからあんなにも大げさだった訳か」
僕はついさっき行われたキスショットの『治癒』を思い出す。
エロかった。
その一言に尽きる。
淫靡というほど猥らでも無く、官能的というほど綺麗でも無く、エッチというほど軽くも無い。
まさしくエロい。
キスショットがどうやって双子の二人を治療したかについてを具体的に話すのはやぶさかではないけれど、ひとつ思い出して欲しいことがある。
僕は羽川の――これといった特徴のないパンツを四ページにわたって描写する男だということを。
そんな僕がキスショットの治療シーンを、今も目を閉じれば鮮明に浮かんでくるあの神秘を語ろうものなら、これからどれだけの文字を、ページを、容量を費やすことになるのか想像がつかない。あれはこの話を彩るエピソードであって、決して主軸のものじゃない。だから事細かに話すことに意味は無いし、必要も無いことだ。それにもし、あれを話したらただでさえアニメ化が難しい出来事ばかりある今までに加え、より一層ハードルを上げてしまうと言うか、年齢制限のあるアニメになってしまいそうだ。
本来なら、さっきのことは僕だけのマイメモリー、青春の一ページとして心に留めておきたいところだけれど、全く話さないというのも都合が悪いから困ってしまう。だからかいつまんで短く話そう。
キスショットはまず、血まみれ血だるまの双子の一人に跨った。そしてそのまま腰を落とし、マウントポジションを取るような体勢になる。そしてそのまま彼女の着ているズタボロの法衣を一気に引き裂いたのだ。ドキリとした僕だけれど、血に濡れた肌を見た瞬間に瀕死であることを強く実感してしまう。
「キスショット……本当に大丈夫なのか?」
不安になる僕に、キスショットはこちらを見ず、指先を双子の頬に置きながら真っ赤な舌を出して口元だけで笑った。
「儂が助けると言ったのじゃ。うぬはそこで黙って見ておれ」
そうしてキスショットは――その舌先を血まみれの双子の胸元に這わせたのだ。
「……っ!」
思わず僕は息を飲む。だってあれだよ!? 目の前で豪奢なドレスの美女が半裸の美少女に覆いかぶさって、胸元から首筋へむかって真っ赤な舌で舐めあげてるんだよ!? もしかして僕は、ちょっと男子禁制な薔薇のなんたらとか姉妹(スール)がなんたらとかの禁断っぽいシーンを目の当たりにしてるんじゃないの?
「うーん、あのままだと風邪をひいちゃうね」
横合いから不意に聞こえた呟くような声に、僕はビクッとして慌てて振り向いた。
そこでは羽川が、顎に手を置きながら何やら思案するように首を傾げていた。
「阿良々木くん。ちょっと買い物に行ってくるね。四十五分くらいで戻ると思うから」
さらりと言って身を翻し、教室を出て行こうとする羽川に、僕は慌てて待ったをかけた。
「外はそれなりに暗いから僕も一緒に行くよ。荷持ち持ちも必要だろうし」
羽川を心配しているのは事実だけれど、あのキスショットの治療シーンは目に毒なような気がする。いや、見たくないわけではないよ? ただ――そう、ただ、なんか僕の求めるものと方向性が違うというのかレベルが違うと言うのか。そういう意味での見ちゃいけない感を感じているのだ。そしてもし……キスショットがあの美少女の眼球を舐めるなんてことになったら――僕は……っ!
「阿良々木くんはここにいないと駄目だよ。もし何かあったときにあの人たちを守らないといけないんだから」
やんわりと、たしなめるように羽川は柔らかく微笑んだ。
「それに……私がいないほうが色々と都合がいいでしょ?」
ちょっと待て! それは一体どういう意味なんだ!?
「あははははは。冗談だよ。でも、エロスはほどほどにね」
愕然とする僕に、何かあったら臓物をぶちまけられるんじゃないかと思わず考えてしまうような言葉を残し、羽川は手を小さく振りながら教室を出て行った。
それからきっかり四十五分後。
羽川は背中に、八九寺ほどではないけれど、それなりの大きさのリュックを背負って帰ってきた。
その時には双子の治療も終わっており、キスショットは「久々に疲れることをしたもんじゃのう」とか言いながら肩を揉んだり、首を鳴らしたり、身体の筋を伸ばしていたりしていた。
左右線対称の双子の治療は完全に終わった。あんなに血まみれだった身体には、今はもう傷ひとつすら残っていない。尽きかけていた生命力をキスショットから分け与えられた双子は、半裸のままで深い寝息をたてて眠っている。傷を治癒するためのエネルギーは彼女達の体力のため、それを回復するために少なくとも丸一日は眠り続けるらしい。
僕はと言えば、なんというかニヤニヤが止まらない。羽川の手前、それを必死に抑えようとするのだけれど、どうしてもあの光景が脳裏から離れない。キスショットさん、ご馳走様でした。
「浸ってるところを悪いんだけどね、阿良々木くん。双子さん達の着替えするから、ちょっと出て行ってもらえるかな」
床に降ろしたリュックから着替えやタオルや毛布やペットボトルの水やらを出しながら羽川は言ってくる。その声がどことなく平坦で冷たく感じたり、僕のほうに視線を一度たりとも向けてこないのは作業を優先しているからだよね……?
「ああ、すまないけれど任せるよ」
それだけ言って、僕は廊下へ出る。それにキスショットも続いた。
「話しておくことは五万とあるな」
よっこいせ、とか言って廊下に胡坐をかくのは絶世の金髪美女にして最強の吸血鬼としてどうなんだろうと思わなくもないけれど、大人な僕は何も言わずに近くに腰を下ろすだけなのであった。
話すことは五万とあるし、聞きたいことも山盛りだ。
まず、これからどうするか、だ。
ホワイト・リリィとブラック・サレナ。白と黒の、左右非対称な双子の怪異退治の専門家。
彼女達の目的はキスショットの『心渡』だ。それを奪取するために、キスショットを完全に殺して潰せる『装備』と『武装』を揃えるために撤退していった。それの準備にどれだけかかるのか。もしかしたらそれは明日には、ううん、今のこの瞬間に現れても全然おかしくない。時間は本当にないのだ。その短い間に僕達に――僕に何が出来るのだろう……
「まあ、焦ることはないじゃろうよ」
僕の不安を見透かすように、キスショットは悠然とした態度で欠伸をかみ殺した。うわ、本当に緊張感がないなぁ。今はもう、僕とそうたいして力は変わらなくなっているはずなのに、その余裕は一体どこから出てくるんだろう。
「あやつらは怪異退治の専門家じゃ。それゆえに吸血鬼退治の準備には時間がかかるじゃろうよ。しかも必殺を期そうというのなら尚更じゃ」
「でも、吸血鬼だって怪異のひとつなんだろう? そんなに手間なんか掛からないんじゃないのか?」
最強の怪異のひとつである吸血鬼と言ったって、それ自体が怪異であることに変わりは無いのだから、そんなに時間が必要だとは思わないのだけれど。
「うぬは根本的な誤解をしておらぬか?」
キスショットは目をすがめ、やれやれと言いたげに息を吐いた。
「確かに吸血鬼は怪異のひとつに違いない。じゃが、だからと言って他の怪異を倒せる方法が通用するかどうかはまた別問題じゃ」
「どういうこと?」
「怪異には共通の弱点がある。例えば、『怪異である』ということそのものがすでに弱点であるようにな。だから『心渡』は必殺となり、儂は怪異殺しなどと渾名される。じゃが、それは儂が強くて強くて強くて美しい故に成立するもの。言わば裏技じゃ。けれど、これは必ずしも人間には当て嵌まらない」
ふふん、と豊かな胸を張りながらキスショットは続ける。
「怪異には怪異になっただけの、怪異と呼ばれるに至った経緯がある。そこから逆算して退治の仕方を組み上げていくのが通常じゃ。そして数多ある怪異のそれには法則性があり、そこから全てに有効な退治法を抽出し、武器とするのが怪異退治の専門家じゃ」
分かりやすく手短で乱暴な説明じゃがな、と付け加えるキスショット。
「じゃが、そういう公式が通用し、必殺となる怪異は広く多くいる故に押しなべて弱く低級じゃ。上級種には致命傷にならん。死霊に聖水は覿面に効くが、儂には肌が焦げるくらいの威力しかないように、な。そして儂が相手なのじゃ。並みの対吸血鬼用装備では話にもならん。だから相当気合の入ったものを揃え、万全を期す必要がある。ホワイトとブラックとやらの背後にどんな組織があるのかは知らぬが、明日明後日ではそうそう揃えられんだろうの」
キスショットが言うことが本当なら、それなりに時間はあるということなのだろう。なら、その気合の入った装備や武装に対抗し、打ち破るだけのものをこちらも用意しないといけないことになる。僕にでも扱えるような、そんな都合のいいものなんてあるのだろうか? ここで特訓するようなことになるのかもしれない。
「だから『心渡』のオリジナルじゃよ」
キスショットはさらりと言う。
「前に従僕に見せたものは儂の作った再構築したものになるがの。もっとも、元々の『心渡』も無銘の刀を素材にしてあやつが……一人目の眷属が己の血肉で作り上げたものじゃがの」
ほんちょっとだけ、キスショットの声音に寂しさみたいなものがよぎった。だけれど、僕はそれに気付かないふりをして、いつものように言葉を作る。
「素材にしたんなら、もう残ってないんじゃないのかよ」
「確かに。素材にしたものは残っていない。だが、『心渡』はもう一振りある」
「もう一振り?」
「そうじゃ。日本刀には真打と影打があるじゃろう? 数本打った中で一番出来の良い物が真打。残りが影打じゃな。真打を客に渡し、影打を手元に残すのが一般的じゃ。この『心渡』の素材がどちらかは知らぬが――それの素材となった刀が手に入ることは強力な武器となる。――対人間用のな」
そう言って、キスショットは獰猛に笑うのだった。
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