×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
七月二日が終わりました。
まだ段数はうまっていませんが、予定通りこれよりリレー小説を開始します。
(1)は前回のためしで載せたものとほとんど同じです。
見落としてはならない設定の部分をカラーでぬっておきました。
それではみなさん、よろしくお願いします。
《ここまでの粗筋~
帰国したばかりの永久咲遥奈は、引越しも済ませないうちに保護者である男に鴉の濡れ羽島に連れてこられる。入島の際のドタバタを潜り抜けやっと自分の部屋に辿り着けた遥奈はすぐに眠ってしまう。》
≪二段目:凪夏儀≫
「ハルちゃん。朝、早いんだね」
「あっ,おはようございます。いーちゃん」
ここ、鴉の濡れ羽島に来て二日目。
いつも通り朝日とともに目を覚ました私、永久咲遥奈(とわざきはるかな)は、昨夜着いたばかりの島を探検していた。
まだ段数はうまっていませんが、予定通りこれよりリレー小説を開始します。
(1)は前回のためしで載せたものとほとんど同じです。
見落としてはならない設定の部分をカラーでぬっておきました。
それではみなさん、よろしくお願いします。
《ここまでの粗筋~
帰国したばかりの永久咲遥奈は、引越しも済ませないうちに保護者である男に鴉の濡れ羽島に連れてこられる。入島の際のドタバタを潜り抜けやっと自分の部屋に辿り着けた遥奈はすぐに眠ってしまう。》
≪二段目:凪夏儀≫
「ハルちゃん。朝、早いんだね」
「あっ,おはようございます。いーちゃん」
ここ、鴉の濡れ羽島に来て二日目。
いつも通り朝日とともに目を覚ました私、永久咲遥奈(とわざきはるかな)は、昨夜着いたばかりの島を探検していた。
軽く見渡したが屋敷と林だけの小島のようだ。世界中けっこう回ってきたけれど、孤島というのに来たのは私も初めての体験だ。
そうして一通り見終わって戻ろうとしていたとき、屋敷の前の並木道で彼と出くわした。
身長は私より拳一つほど高い。うっすらと茶色い髪は長すぎず短すぎずで、天然なのか染めているのかは分からない。フード付きのジャケットに、ジーパンにスニーカー、どれを見てもあまり高価なものには見えない。私と同様、あまり衣類にはお金をかけないタイプのようだった。ちなみに今の私の格好は、白のカッターシャツに黒の膝元までのスカートというラフな服装だ。服装を対色でまとめるのは私のスタンスの一つでもある。
彼とは昨日も少しだけ会っていて、話もしている。
なんだか力を抜いているというか、意識的にか無意識か実体を相手につ かませないような接し方をする人だった。
いーちゃんが立ち止まるので、私も立ち止まる。
「そういういーちゃんも早いんですね。まだ六時半でしょう?」
そう言ってから念のためにポケットに入れていた懐中時計を見やる。
時間はたしかに六時三十分。私にしてみれば普通だが、この時間帯に起きてくる友人は今までにあまりいなかった。
「ん。ちょっと目が覚めちゃってね。散歩でもしてみようかなって」
いーちゃんは何気なさそうに答えた。
表情から見て半覚醒状態のようで、少し眠たそうではある。けれど寝癖などはないようだ。私なんかとんでもない剛毛なので、毎朝寝癖直しには苦労させられている。ツインテールとはいえ油断はできないのだ。
私はそんないーちゃんの顔を覗き込みながら
「そうですか。私はさっきまで散歩してて、今部屋に帰ろうとしてたところなんです」
「へえ。誰かに会った?」
「会った、というより遠目にいるのを見つけただけなんですけれど、向こうの桜の木のところに車椅子の方と男の方がいましたよ」
私が歩いて来た方角を指刺しながら言うと、いーちゃんは「かなみさんと深夜さんだね」と言った。
その二人の名前はまだ聞いていなかった。
というよりもここに来てからまだほとんど人には会っていない。
会っているのはここに連れてきてくれたあかりさんに、昨夜リビングでお酒を飲んでいた姫菜真姫さん、そしてその真姫さんにからまれていた、いーちゃんだけだ。屋敷の主人にさえまだだし、ここに誰がいるかなど一人を除いて聞かされてもいない。
そう、たった一人だけを除いて、
「玖渚さんは、まだおやすみですか?」
私はずっと気になっていたことを、なるべくさりげない風を装って尋ねる。
玖渚友。
この島に来た一番の目的。
私の尊敬する人が全身全霊で敬愛している人物。
《最後の晩餐(ドーム)》のリーダーにして、《死線の蒼(デッド・ブルー)》と呼ばれる存在。
まだ実際に会ったことはないが、彼女の話は嫌というほどに聞かされている。
その素晴らしさも、その恐ろしさも、隅々まで。
私の内心など知る由もないいーちゃんは、いまだに眠たげな調子で答える。
「さっき起きてたよ。徹夜してるだろうと思ってぼくが寝かしに行ったら、逆に起こしちゃってさ」
いーちゃんは苦笑しながら言った。
うそ臭い笑顔だったが。
ふと疑問に思った。
「え? いーちゃんは玖渚さんと一緒の部屋に泊まってるんじゃないんですか」
私が訊くと、いーちゃんはさも心外だとでも言うように、
「なんでぼくが友の部屋で寝てるなんて思うのかな。ぼくは別の部屋に泊まっているよ」
「だって昨日真姫さんが二人は恋人だって言ってたじゃないですか。ラブラブでデロデロな関係なんだって」
「ぼくと友は友達だよ。それにデロデロってなんなんだ……」
「私が聞きたいです」
それにそういう考えを持っていた原因は他にもある。
たしかに以前あの人も似たようなことを言っていた。
その時はあの人にしては珍しい罵詈荘厳もつけ加えられていたが。
「そういえば、なんだけどさ」
「……あっ、はい。なんです?」
その話の調子の変化から話題が変わるのが感じ取れる。
玖渚友のことを聞かれるのかと、一瞬身構えたが、その話題はそれとはあまり関係のない話だった。
「こういうのを本人に聞くの失礼かもしれないんだけど、ハルちゃんはどの分野の人なのかな?」
「分野、ですか?」
首をかしげている私にいーちゃんは質問を直してくる。
「えっと、ここいる人はみんな天才の人ばっかりじゃないか。ぼくや深夜さんはお付きだから違うけど、君はちゃんと呼ばれているんだか何かの分野の天才なんだよね」
なんだよね、と言われても私はうまく頷くことができない。
確かにそれは聞く人が聞いたら失礼な質問だったが、問題はそこではない。
私は腕を組んで次の言葉を考える。しかしなかなかいい言葉が見つからない。
「なんと言ったものでしょうか。その質問は答えづらいです」
「秘密な分野ってこと? 秘匿義務があるとか」
「いえ、違うんです。なんていうか……私、自分でもよく分かっていないんです。なにか感覚器官に特殊なところがあるらしいんですけど、みんな難しい言葉でしか説明してくれないから……」
私の声はだんだんを尻すぼみになっていく。
要領を得ない答えに、今度はいーちゃんが首をかしげる。
でもこればかりはどうしようもない。
私は提督に連れられて世界を回っていた五年間、出会ってきたいろんな人達に「天才」という単語で呼ばれてはきた。けれど私自身、未だにその実感は沸いてこないでいる。私はただ誰にでもできることをしているだけであって、特別なことをしているつもりはない。実際に私のできることをできない人間はこれまでにいなかったし、私には人ができること以上のことをすることはできたことがないのだから。
「ここに来たのだって、提督、あっ、私の保護者みたいな人なんですけど、提督が良い経験になるからって連れてこられて」
その提督も船着場で別れてしまった。
私をどこかに預けて提督がいなくなるのはいつものことなのだが、こうして私は自分でもよく分かっていない《無自覚の天才》としてこの島に迎えられた。しかもVIP待遇で。
なんと肩身の狭いことだろう。
けれど提督が迎えに来るまであと一週間あるのだ。
「なんだか……複雑なんだね」
いーちゃんは分かっていないけど、無理矢理に分かったことにして話を終わらせる気のようだった。しかしそこは私も願ったり叶ったりなので特に何も言わない。
いーちゃんは一度大きく伸びをすると、並木の向こうを見ながら言った。
「じゃあそろそろ散歩の続きに出かけるよ」
「そうですか。じゃあ私も部屋に戻ります」
歩き出そうとしたところで、あとね、といーちゃんに呼び止められる。
「昨日も言ったけど、できればいーちゃんって呼ぶのやめてくれないかな。あんまり好きじゃないんだその呼び名」
私は少し間を空け頬を膨らませて、
「私も昨日言ったんですけど忘れてたんですか? 私も嫌いなんです。ハルちゃんって呼び名」
私が怒った声で言うと、いーちゃんはそうだっけと言った。
どうやら忘れていたらしい。
再び私は歩き出す。
いーちゃんも逆の方向へと歩き出したようだった。
「また夕食の時にね。ハルちゃん」
「道中お気をつけて、いーちゃん」
今度はお互いに立ち止まらなかった。
了
『三段目:矢賀見高也へ、七月二日』
そうして一通り見終わって戻ろうとしていたとき、屋敷の前の並木道で彼と出くわした。
身長は私より拳一つほど高い。うっすらと茶色い髪は長すぎず短すぎずで、天然なのか染めているのかは分からない。フード付きのジャケットに、ジーパンにスニーカー、どれを見てもあまり高価なものには見えない。私と同様、あまり衣類にはお金をかけないタイプのようだった。ちなみに今の私の格好は、白のカッターシャツに黒の膝元までのスカートというラフな服装だ。服装を対色でまとめるのは私のスタンスの一つでもある。
彼とは昨日も少しだけ会っていて、話もしている。
なんだか力を抜いているというか、意識的にか無意識か実体を相手につ かませないような接し方をする人だった。
いーちゃんが立ち止まるので、私も立ち止まる。
「そういういーちゃんも早いんですね。まだ六時半でしょう?」
そう言ってから念のためにポケットに入れていた懐中時計を見やる。
時間はたしかに六時三十分。私にしてみれば普通だが、この時間帯に起きてくる友人は今までにあまりいなかった。
「ん。ちょっと目が覚めちゃってね。散歩でもしてみようかなって」
いーちゃんは何気なさそうに答えた。
表情から見て半覚醒状態のようで、少し眠たそうではある。けれど寝癖などはないようだ。私なんかとんでもない剛毛なので、毎朝寝癖直しには苦労させられている。ツインテールとはいえ油断はできないのだ。
私はそんないーちゃんの顔を覗き込みながら
「そうですか。私はさっきまで散歩してて、今部屋に帰ろうとしてたところなんです」
「へえ。誰かに会った?」
「会った、というより遠目にいるのを見つけただけなんですけれど、向こうの桜の木のところに車椅子の方と男の方がいましたよ」
私が歩いて来た方角を指刺しながら言うと、いーちゃんは「かなみさんと深夜さんだね」と言った。
その二人の名前はまだ聞いていなかった。
というよりもここに来てからまだほとんど人には会っていない。
会っているのはここに連れてきてくれたあかりさんに、昨夜リビングでお酒を飲んでいた姫菜真姫さん、そしてその真姫さんにからまれていた、いーちゃんだけだ。屋敷の主人にさえまだだし、ここに誰がいるかなど一人を除いて聞かされてもいない。
そう、たった一人だけを除いて、
「玖渚さんは、まだおやすみですか?」
私はずっと気になっていたことを、なるべくさりげない風を装って尋ねる。
玖渚友。
この島に来た一番の目的。
私の尊敬する人が全身全霊で敬愛している人物。
《最後の晩餐(ドーム)》のリーダーにして、《死線の蒼(デッド・ブルー)》と呼ばれる存在。
まだ実際に会ったことはないが、彼女の話は嫌というほどに聞かされている。
その素晴らしさも、その恐ろしさも、隅々まで。
私の内心など知る由もないいーちゃんは、いまだに眠たげな調子で答える。
「さっき起きてたよ。徹夜してるだろうと思ってぼくが寝かしに行ったら、逆に起こしちゃってさ」
いーちゃんは苦笑しながら言った。
うそ臭い笑顔だったが。
ふと疑問に思った。
「え? いーちゃんは玖渚さんと一緒の部屋に泊まってるんじゃないんですか」
私が訊くと、いーちゃんはさも心外だとでも言うように、
「なんでぼくが友の部屋で寝てるなんて思うのかな。ぼくは別の部屋に泊まっているよ」
「だって昨日真姫さんが二人は恋人だって言ってたじゃないですか。ラブラブでデロデロな関係なんだって」
「ぼくと友は友達だよ。それにデロデロってなんなんだ……」
「私が聞きたいです」
それにそういう考えを持っていた原因は他にもある。
たしかに以前あの人も似たようなことを言っていた。
その時はあの人にしては珍しい罵詈荘厳もつけ加えられていたが。
「そういえば、なんだけどさ」
「……あっ、はい。なんです?」
その話の調子の変化から話題が変わるのが感じ取れる。
玖渚友のことを聞かれるのかと、一瞬身構えたが、その話題はそれとはあまり関係のない話だった。
「こういうのを本人に聞くの失礼かもしれないんだけど、ハルちゃんはどの分野の人なのかな?」
「分野、ですか?」
首をかしげている私にいーちゃんは質問を直してくる。
「えっと、ここいる人はみんな天才の人ばっかりじゃないか。ぼくや深夜さんはお付きだから違うけど、君はちゃんと呼ばれているんだか何かの分野の天才なんだよね」
なんだよね、と言われても私はうまく頷くことができない。
確かにそれは聞く人が聞いたら失礼な質問だったが、問題はそこではない。
私は腕を組んで次の言葉を考える。しかしなかなかいい言葉が見つからない。
「なんと言ったものでしょうか。その質問は答えづらいです」
「秘密な分野ってこと? 秘匿義務があるとか」
「いえ、違うんです。なんていうか……私、自分でもよく分かっていないんです。なにか感覚器官に特殊なところがあるらしいんですけど、みんな難しい言葉でしか説明してくれないから……」
私の声はだんだんを尻すぼみになっていく。
要領を得ない答えに、今度はいーちゃんが首をかしげる。
でもこればかりはどうしようもない。
私は提督に連れられて世界を回っていた五年間、出会ってきたいろんな人達に「天才」という単語で呼ばれてはきた。けれど私自身、未だにその実感は沸いてこないでいる。私はただ誰にでもできることをしているだけであって、特別なことをしているつもりはない。実際に私のできることをできない人間はこれまでにいなかったし、私には人ができること以上のことをすることはできたことがないのだから。
「ここに来たのだって、提督、あっ、私の保護者みたいな人なんですけど、提督が良い経験になるからって連れてこられて」
その提督も船着場で別れてしまった。
私をどこかに預けて提督がいなくなるのはいつものことなのだが、こうして私は自分でもよく分かっていない《無自覚の天才》としてこの島に迎えられた。しかもVIP待遇で。
なんと肩身の狭いことだろう。
けれど提督が迎えに来るまであと一週間あるのだ。
「なんだか……複雑なんだね」
いーちゃんは分かっていないけど、無理矢理に分かったことにして話を終わらせる気のようだった。しかしそこは私も願ったり叶ったりなので特に何も言わない。
いーちゃんは一度大きく伸びをすると、並木の向こうを見ながら言った。
「じゃあそろそろ散歩の続きに出かけるよ」
「そうですか。じゃあ私も部屋に戻ります」
歩き出そうとしたところで、あとね、といーちゃんに呼び止められる。
「昨日も言ったけど、できればいーちゃんって呼ぶのやめてくれないかな。あんまり好きじゃないんだその呼び名」
私は少し間を空け頬を膨らませて、
「私も昨日言ったんですけど忘れてたんですか? 私も嫌いなんです。ハルちゃんって呼び名」
私が怒った声で言うと、いーちゃんはそうだっけと言った。
どうやら忘れていたらしい。
再び私は歩き出す。
いーちゃんも逆の方向へと歩き出したようだった。
「また夕食の時にね。ハルちゃん」
「道中お気をつけて、いーちゃん」
今度はお互いに立ち止まらなかった。
了
『三段目:矢賀見高也へ、七月二日』
PR
この記事にコメントする
