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蝦さん、十分に時間をかけただけある出来栄えです。登場人物は事件へのアクションを起こし始めています。その中で遥奈はどう動くのか。
クビキリ+、第6話!
≪ここまでの粗筋~
鴉の濡れ羽島で起こった殺人事件。アリバイ確認が行われ、その中で容疑者である園山朱音の保護が決まる。その話し合いの中で、遥奈は周囲とは違った疑問を抱く≫
『八段目、蝦彌永』
「本当にあれでよかったのかねえ」
いーちゃんは誰に言うでもなく呟いた。
彼は玖渚さんの髪をくくっているところだった。
周りにはタワー型のコンピューターが三台。真ん中の一台だけやけに大きい。
クビキリ+、第6話!
≪ここまでの粗筋~
鴉の濡れ羽島で起こった殺人事件。アリバイ確認が行われ、その中で容疑者である園山朱音の保護が決まる。その話し合いの中で、遥奈は周囲とは違った疑問を抱く≫
『八段目、蝦彌永』
「本当にあれでよかったのかねえ」
いーちゃんは誰に言うでもなく呟いた。
彼は玖渚さんの髪をくくっているところだった。
周りにはタワー型のコンピューターが三台。真ん中の一台だけやけに大きい。
――玖渚さんの部屋。
ダイニングから自分の部屋に戻る途中にいーちゃんと玖渚さんに会ったので言われるがままについてきたのだ。どうせ一人でいたって何もすることはないのだけども。
「よかったと思うよー。僕様ちゃんの思ってたのと大体同じだったし。赤音ちゃんも感謝してるんじゃないかなー。あのまま不毛な言い争いを続けるよりはずっといい解決策だったよ」
本当にそうだろうか。あれじゃあまるで監禁ではないか――そんなこと口にするわけなく。
「私も、そう思います」
その言葉に彼は表情を少しだけやわらかくした。
「でも、やっぱり悪いことしたよなー」
「それもそうですけど仕方ないことじゃないですか。とりあえずイリアさんを納得させたんですから」
「そうだよー、いーちゃん」
「そうかな?
……終わったよ」
玖渚さんの髪の毛は先程より低い位置に結ばれていた。
彼女はいーちゃんにお礼を言うと、這いつくばってパソコンの前に行き、電源を入れてキータッチを始めた。
三台ものコンピューターをどのようにして操るんだろう?こんなキーボードの文字の配列は見たことがない。マウスもついていないし…
そのことを訊ねると玖渚さんは「自作だよー」となんでもないように言った。
これが彼女の才能か。
しかし私は彼女が提督が言っていたような素晴らしさも、恐ろしさも微塵と感じることが出来なかった。
このくらいなら提督にだって出来るだろう。
提督があれほどまでに彼女を慕う理由がわからなかった。
いーちゃんと玖渚さん、恋人同士ではないと言ってはいたけれど。
……なんとなく。
なんとなくだけども、二人の邪魔をしてはいけないような気がしたので私は黙って二人の会話に耳を傾けることにした。
何でイリアさんは警察を呼ばなかったのだろう。――あの人、何か隠しているのだろうか。
例えば以前、人殺しをしたとか。
「……洒落にならないもんねー、ER3の七愚人が殺人事件の容疑者なんて」
玖渚さんの言葉。
「ER3には、友、詳しいのか?」
いーちゃんの言葉。
E R 3。
聞いたことがあるような……。
誰が?
どうして?
いつ?
わ か ら な い。
……思い出せない。
話によるといーちゃんは昔ER3システムの若手育成の留学制度――ERプログラムに参加していたらしかった。
どうやらそこではいい思い出がなかったようでいーちゃんはそのことについて多くのことを語らなかった。
私もあえてそのことを聞きだすようなことはしなかった。
玖渚さんが「んー」と唸り声を上げ、椅子をこちらに向けたかと思うと「こっちこっち」と手招きするものだから、私の思考は現実に引き戻された。
「一応ね、今のところのみんなのアリバイをまとめてみたんだよ」
そう言うと彼女はパソコンのディスプレイを私達が見やすいように少しずらした。
◇ ◆ ◇
伊吹かなみ 殺された
園山赤音 地震前 ×
地震後 ×
玖渚友 地震前 ○(いーちゃん・ひかり・真姫・深夜)
地震後 ×
佐代野弥生 地震前 ○(イリア・玲)
地震後 ×
千賀あかり 地震前 △(てる子)
地震後 ×
千賀ひかり 地震前 ○(いーちゃん・友・真姫・深夜)
地震後 ×
千賀てる子 地震前 △(あかり)
地震後 ×
逆木深夜 地震前 ○(いーちゃん・友・真姫・ひかり)
地震後 ○(真姫)
班田玲 地震前 ○(イリア・弥生)
地震後 △(イリア)
姫菜真姫 地震前 ○(いーちゃん・友・ひかり・深夜)
地震後 ○(深夜)
赤神イリア 地震前 ○(玲・弥生)
地震後 △(玲)
◇ ◆ ◇
こうしてみると確かにわかりやすい。
身内同士の証言はいまいち信用できないのでデルタ。
共犯は多分無いだろう。
ほどんどの人が――イリアさんやメイドさんたちを除いて――皆、初対面のはずなのだから。
完全なアリバイがあるのは深夜さんと真姫さん、玲さんとイリアさん。
4人。
残りは7人。
……ん?
今、島にいるのは13人。
私 の 名 前 が 無 い。
いーちゃんはともかく私の名前が外されているの?
「どうして僕とハルちゃんの名前、書いてないんだ?」
「信じてるから」
そう言ってでんぐり返しをする彼女。
信じてる?
あなたが私のことを信じる理由はどこにあるの?
信じるだなんて簡単に言わないで。
私の表情から彼女はなにかを察したらしい。
「いーちゃんが、僕様ちゃん以外の人間にいーちゃんって呼ぶのを許しているのはめずらしいからさ」
でも、嫌がっている…
いーちゃんも2日前の会話を思い出しているのだろうか。
表情が固まる。
「うに。
2人とも、辛気くさい顔してると幸せが逃げるんだよー」
無邪気な笑い。
いーちゃんもだけど、玖渚さんってただ生きてるだけって感じ。
中身が無い人形。
そんな感じ。
なんか……怖い。
事件について話していたけれど、一向に先に進まず、結局現場検証をしに行くことになった。
かなみさんの首切り死体――遺体、といった方がいいのだろうか。
でも私にはそれは首のないただの肉の塊にしか見えなかった。
怖い、とも思わなかったし、悲しいとも思わなかった。
生きている以上いつかは死ぬものだってことくらい、幼稚園児でも知ってること。
……それにしても。
何故こんなに肩が平らになっているのだろう。
根元からざっくりと切られている。
首を切るだけなら簡単だろうけど、こんな風に切るのは難しいし大変だろう。
遺体の近くにはかなみさんが描いたとみられる絵。
桜。
――写真かと思った。
いや、違う。
写真よりもっと繊細で、もっと大胆で、もっと美しい。
言葉では言い表せないような、ただそこにあるということだけで圧倒される絵。
これが、芸術か。
そして……
いーちゃんの肖像。
そっくり。
でもなにか違う。
気迫を感じる。
違和感。
綺麗。
なにかが変。
呆然と、私はその場に座り込み、絵を眺め続けた。
いーちゃんも私よりちょっと離れた場所で。
玖渚さんは絵よりも遺体のほうに気を取られている。
天才だ、と思った。
――その後、私達は深夜さんと一緒にかなみさんの遺体を埋葬することにした。
埋葬、といっても寝袋に包んで土に埋めただけ。
本当は頭も一緒に埋めてやりたかったと深夜さんは呟いた。
私は何も言えずにそっとその場を後にした。
了
『8月3日九段目、針山へ』
ダイニングから自分の部屋に戻る途中にいーちゃんと玖渚さんに会ったので言われるがままについてきたのだ。どうせ一人でいたって何もすることはないのだけども。
「よかったと思うよー。僕様ちゃんの思ってたのと大体同じだったし。赤音ちゃんも感謝してるんじゃないかなー。あのまま不毛な言い争いを続けるよりはずっといい解決策だったよ」
本当にそうだろうか。あれじゃあまるで監禁ではないか――そんなこと口にするわけなく。
「私も、そう思います」
その言葉に彼は表情を少しだけやわらかくした。
「でも、やっぱり悪いことしたよなー」
「それもそうですけど仕方ないことじゃないですか。とりあえずイリアさんを納得させたんですから」
「そうだよー、いーちゃん」
「そうかな?
……終わったよ」
玖渚さんの髪の毛は先程より低い位置に結ばれていた。
彼女はいーちゃんにお礼を言うと、這いつくばってパソコンの前に行き、電源を入れてキータッチを始めた。
三台ものコンピューターをどのようにして操るんだろう?こんなキーボードの文字の配列は見たことがない。マウスもついていないし…
そのことを訊ねると玖渚さんは「自作だよー」となんでもないように言った。
これが彼女の才能か。
しかし私は彼女が提督が言っていたような素晴らしさも、恐ろしさも微塵と感じることが出来なかった。
このくらいなら提督にだって出来るだろう。
提督があれほどまでに彼女を慕う理由がわからなかった。
いーちゃんと玖渚さん、恋人同士ではないと言ってはいたけれど。
……なんとなく。
なんとなくだけども、二人の邪魔をしてはいけないような気がしたので私は黙って二人の会話に耳を傾けることにした。
何でイリアさんは警察を呼ばなかったのだろう。――あの人、何か隠しているのだろうか。
例えば以前、人殺しをしたとか。
「……洒落にならないもんねー、ER3の七愚人が殺人事件の容疑者なんて」
玖渚さんの言葉。
「ER3には、友、詳しいのか?」
いーちゃんの言葉。
E R 3。
聞いたことがあるような……。
誰が?
どうして?
いつ?
わ か ら な い。
……思い出せない。
話によるといーちゃんは昔ER3システムの若手育成の留学制度――ERプログラムに参加していたらしかった。
どうやらそこではいい思い出がなかったようでいーちゃんはそのことについて多くのことを語らなかった。
私もあえてそのことを聞きだすようなことはしなかった。
玖渚さんが「んー」と唸り声を上げ、椅子をこちらに向けたかと思うと「こっちこっち」と手招きするものだから、私の思考は現実に引き戻された。
「一応ね、今のところのみんなのアリバイをまとめてみたんだよ」
そう言うと彼女はパソコンのディスプレイを私達が見やすいように少しずらした。
◇ ◆ ◇
伊吹かなみ 殺された
園山赤音 地震前 ×
地震後 ×
玖渚友 地震前 ○(いーちゃん・ひかり・真姫・深夜)
地震後 ×
佐代野弥生 地震前 ○(イリア・玲)
地震後 ×
千賀あかり 地震前 △(てる子)
地震後 ×
千賀ひかり 地震前 ○(いーちゃん・友・真姫・深夜)
地震後 ×
千賀てる子 地震前 △(あかり)
地震後 ×
逆木深夜 地震前 ○(いーちゃん・友・真姫・ひかり)
地震後 ○(真姫)
班田玲 地震前 ○(イリア・弥生)
地震後 △(イリア)
姫菜真姫 地震前 ○(いーちゃん・友・ひかり・深夜)
地震後 ○(深夜)
赤神イリア 地震前 ○(玲・弥生)
地震後 △(玲)
◇ ◆ ◇
こうしてみると確かにわかりやすい。
身内同士の証言はいまいち信用できないのでデルタ。
共犯は多分無いだろう。
ほどんどの人が――イリアさんやメイドさんたちを除いて――皆、初対面のはずなのだから。
完全なアリバイがあるのは深夜さんと真姫さん、玲さんとイリアさん。
4人。
残りは7人。
……ん?
今、島にいるのは13人。
私 の 名 前 が 無 い。
いーちゃんはともかく私の名前が外されているの?
「どうして僕とハルちゃんの名前、書いてないんだ?」
「信じてるから」
そう言ってでんぐり返しをする彼女。
信じてる?
あなたが私のことを信じる理由はどこにあるの?
信じるだなんて簡単に言わないで。
私の表情から彼女はなにかを察したらしい。
「いーちゃんが、僕様ちゃん以外の人間にいーちゃんって呼ぶのを許しているのはめずらしいからさ」
でも、嫌がっている…
いーちゃんも2日前の会話を思い出しているのだろうか。
表情が固まる。
「うに。
2人とも、辛気くさい顔してると幸せが逃げるんだよー」
無邪気な笑い。
いーちゃんもだけど、玖渚さんってただ生きてるだけって感じ。
中身が無い人形。
そんな感じ。
なんか……怖い。
事件について話していたけれど、一向に先に進まず、結局現場検証をしに行くことになった。
かなみさんの首切り死体――遺体、といった方がいいのだろうか。
でも私にはそれは首のないただの肉の塊にしか見えなかった。
怖い、とも思わなかったし、悲しいとも思わなかった。
生きている以上いつかは死ぬものだってことくらい、幼稚園児でも知ってること。
……それにしても。
何故こんなに肩が平らになっているのだろう。
根元からざっくりと切られている。
首を切るだけなら簡単だろうけど、こんな風に切るのは難しいし大変だろう。
遺体の近くにはかなみさんが描いたとみられる絵。
桜。
――写真かと思った。
いや、違う。
写真よりもっと繊細で、もっと大胆で、もっと美しい。
言葉では言い表せないような、ただそこにあるということだけで圧倒される絵。
これが、芸術か。
そして……
いーちゃんの肖像。
そっくり。
でもなにか違う。
気迫を感じる。
違和感。
綺麗。
なにかが変。
呆然と、私はその場に座り込み、絵を眺め続けた。
いーちゃんも私よりちょっと離れた場所で。
玖渚さんは絵よりも遺体のほうに気を取られている。
天才だ、と思った。
――その後、私達は深夜さんと一緒にかなみさんの遺体を埋葬することにした。
埋葬、といっても寝袋に包んで土に埋めただけ。
本当は頭も一緒に埋めてやりたかったと深夜さんは呟いた。
私は何も言えずにそっとその場を後にした。
了
『8月3日九段目、針山へ』
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