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後悔しかなかった。
今回の出来事を回想する、それが僕の主観的な感想だ。
これまでの半年間。
春に吸血鬼に出遭い、初夏に狐に出遭うまでの半年間に起きた様々な、そして摩訶不思議な事件は、それを経験することでいずれも何かしら得るものはあった。
友達や。
教訓や。
喜びを。
確かに失ったものもあったし、傷つきもしたけれど、それでも納得のいく終わり方をしてこれた。
けれど、今回は違った。
あの『双子』との出会いによって始まった、高校生活最後の夏休みは。
今ならわかる。
あれは戦争だった。
悲劇でも、喜劇でも、活劇でもなんでもない。
地獄ですらない、ただの戦争行為。
得たものなど、何もなく。
失ったものだけが、多すぎた。
だから、僕には後悔することしかできない。
そして思うのだ。
鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード。
最強の勇名にして、恐怖の代名詞の持ち主が。
その名も姿も力も失った、あの小さな少女が。
実は最初から舞台の中心に立っていた彼女が。
何を思い、僕に今も牙を立てているのだろうか、と。
当然、僕にはわからない。
人の心なんて、いつでもわからないものなのだから。
0 0 1
「あっ、良々木くんだ。やっほー」
「つい出ちゃった感じの声で人の名前を省略するな」
名前いじりは八九寺の領分じゃなかったのかよ。
そんなことを思いながら、僕は声のした方に振り向いた。
一学期の終業式のあった日の午後。
場所は自転車置き場へ向かう途上。
そして声の主は、いつものごとくきっちりかっちり校則指定の制服姿に三つ編みおさげ、丸めがねをかけた我らが委員長の中の委員長こと、羽川翼だった。
僕とは違い、手にしている鞄は薄そうに見える。僕みたいに、どれが要ることになるかわからないから片っ端から教科書を回収していこうなどと考えることなど、こいつにはありえないのだろう。
ともあれ。
このシチュエーション。
半年前の、初めて羽川と言葉を交わしたときのことを思い出す。
あの日は、去年の三学期の終業式の日だったので、なおさらだった。
あの日――
まぁ、……あの日はいろいろあったが、とにかくあの日の夜に僕は金髪の吸血鬼と出会い、怪異と呼ばれる存在の存在を知ったのだ。
あれが分水嶺だったのは、火を見るより明らかだろう。
それを選び取ったのは僕であり。
後悔なんて、していない。
「あはは。なんだか思い出しちゃうよね。このシチュエーションは」
苦笑しながらいう羽川。
考えることは同じらしい。
遠い目を、過去を慈しむような顔をして、羽川はいった。
「阿良々木くんに私、パンツ見られちゃったんだよねえ」
「それかよ!」
あれだけの大事件があって、吸血鬼やらヴァンパイアハンターやら出てきて、バトルに次ぐバトルがあって、僕は一度死んでお前だって死にかけたりしたのに! 全部ひっくるめて最初に思い出すのが、それかよ!
ぶっちゃけ僕もそうだったけどさあ!
今でもはっきり思い出せるよ!
4ページぐらい語れるよ!
「そういえば、今日はいているのもあの日と同じパンツだったっけ。すごい偶然だね」
そんなことを笑顔で語る羽川に。
僕は驚愕した。
「なんだって?! あの清楚な純白色の、際どい形というわけでもない、布面積数値はむしろ大きいほうだろう。幅も広く、生地も厚いそれである――断じて扇情的ではないし、そういう意味では色気に欠けていると言っていいのかもしれない。しかしそのあまりの白さに僕は眩しささえ憶えた……――アレかっ!」
無理やりセリフを途中で言い切る。
あ、危なかった。
あまりの驚きについまた4ページもパンツの描写に消費してしまうところだった。
そんなことしてみろ、リレー小説仲間に手抜きだと思われてしまうじゃないか。
それほどまでの衝撃だった。
衝撃的事実だった。
いや?
もしかしたらは今のは羽川流のジョークなのだろうか。
考えてみればそうそう偶然は続かない。物が確かめるわけにもいかない下着ならば嘘もつき放題だしな。思えば、羽川は二度目の猫騒ぎを経てから、なんというか、成長した、一皮むけた感があった。きっと大きな困難を乗り越えたためだろう。元から大きかったやつが、さらに大きさを増した感じだ。もう僕なんて比べるべくもない。
だから、そんな期待を持って羽川に再度目を向けてみた。
矮小なものを見る目で見られていた。
すげえダメージだった。
「阿良々木くん。そんな感想を抱いてたんだ……」
「しまった! あの時は思っただけで声には出していなかったんだ!」
「……」
「ごめんなさいっ! 引かないでください!」
「阿良々木くん」
「はい」
「エロスはほどほどにね」
「はい……。ていうかそんなネタまで使いこなせるなんて、お前は本当になんでも知ってるんだな」
「なんでもは知らないよ。知ってることだけ」
いつもの押収だった。
そして僕は反省した。
流れを読んで、今度は羽川が話を切り替えてくる。
「そういえば阿良々木くんは、こんなところで何してたの? 戦場ヶ原さんとは、一緒じゃないみたいだけど」
「ああ、それはな」
思い出す。
終業式が終わって下校が始まってからもう三時間近く経っている。時刻はもうすぐ夕刻だ。自習をしようにも図書館は特別時間割で開いていない。それなのに僕がこんな時間まで残っていたのは、クラスメートにして彼女でもある戦場ヶ原ひたぎを待っていたからだった。
なんでも進路相談だそうだ。
30分で終わるから待っていてと言われて。
何が長引いたのか教室で3時間待たされた。
そして5分くらいトイレにいっていた僕が帰ってくると教室からは戦場ヶ原の荷物が消えていて、『先に変えるから』と書かれた置手紙だけが残されていたのだった。
以上。
おしまい。
そして今にいたる。
「ふ~ん。置き去りにされたんだね」
「声に出していわないでくれ。凹むから」
実際すでにかなり凹んでいる。
お腹と背中がくっつきそうだ。
だからここまでの羽川との会話は意外といい気晴らしになっていた。
けれど、思い出してしまった。
せっかく忘れかけていたのに。
「阿良々木くん。元気出して」
「うん。ありがとう羽川。僕の味方はお前だけだよ」
ありがたい。
本当にいいやつなのだ羽川翼は。
そして、感動に心を震わせている僕の肩を、羽川が楽しそうに叩いて言った。
「そうだ。ここで会ったのも何かの縁だしね。阿良々木くん。私に何かおごってよ」
「いやいやそこまで気を使ってくれなくても……ん?」
私……に?
逆では?
聞き間違いかと羽川の方を見ると、彼女はまた遠い目をしていた。
何を思い出しているのだろうか。
「あの、羽川さん?」
「半年前……パンツ……」
ボソリという羽川。
はっきりいわないところが逆に怖い。
羽川は静かに声のトーンを落として、少し物悲しげな顔になった。
「私……あれがトラウマになってるんだよね。……PTSD? あの日以来、怖くてスカート姿で外を歩きながら三つ編み結ぶのができないんだ……でも阿良々木くん。私にそんな心的後遺症を残しておいて、何も償おうとか考えないんだよね……。私の下着を家に飾っているくせに……それを戦場ヶ原さんには秘密にしているくせに……」
「なんでもおごらせてください翼さま!」
ぼくは絶叫していた。
たくさんあったはずのツッコミどころさえもツッコメないままに。
しかし信じてくれ!
使ってはいないんだ! 決して!
でもこれは言ってしまうと、すごい下種な人間として認定されそうだった。
考えている時点ですでに下種かもしれない。
ていうか、一生阿良々木暦のことを強請れそうな気がするネタだった
「でも羽川さん? 登下校中の寄り道は校則の方で……」
「大丈夫。買うのは阿良々木くんだからね」
「屁理屈じゃんっ!」
いや、マジで一皮向けすぎだろこの人。
いいやつというか、いい性格なやつになっている。
これも成長の証なのだろうか。
こうして、僕は一学期の最終日を終えることになったのだった。
しかし僕は、やはり感じることはなかったのだ。
予感めいたものなど、何一つ。
半年前と同様に。
ここまで半年前と酷似してしまった事態が、いったいなんの啓示なのかなんて。
そして、成長をしていなかった僕は、愚かにも繰り返すことになる。
二度と繰り返すまいと思っていた――
過ちを。
今回の出来事を回想する、それが僕の主観的な感想だ。
これまでの半年間。
春に吸血鬼に出遭い、初夏に狐に出遭うまでの半年間に起きた様々な、そして摩訶不思議な事件は、それを経験することでいずれも何かしら得るものはあった。
友達や。
教訓や。
喜びを。
確かに失ったものもあったし、傷つきもしたけれど、それでも納得のいく終わり方をしてこれた。
けれど、今回は違った。
あの『双子』との出会いによって始まった、高校生活最後の夏休みは。
今ならわかる。
あれは戦争だった。
悲劇でも、喜劇でも、活劇でもなんでもない。
地獄ですらない、ただの戦争行為。
得たものなど、何もなく。
失ったものだけが、多すぎた。
だから、僕には後悔することしかできない。
そして思うのだ。
鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード。
最強の勇名にして、恐怖の代名詞の持ち主が。
その名も姿も力も失った、あの小さな少女が。
実は最初から舞台の中心に立っていた彼女が。
何を思い、僕に今も牙を立てているのだろうか、と。
当然、僕にはわからない。
人の心なんて、いつでもわからないものなのだから。
0 0 1
「あっ、良々木くんだ。やっほー」
「つい出ちゃった感じの声で人の名前を省略するな」
名前いじりは八九寺の領分じゃなかったのかよ。
そんなことを思いながら、僕は声のした方に振り向いた。
一学期の終業式のあった日の午後。
場所は自転車置き場へ向かう途上。
そして声の主は、いつものごとくきっちりかっちり校則指定の制服姿に三つ編みおさげ、丸めがねをかけた我らが委員長の中の委員長こと、羽川翼だった。
僕とは違い、手にしている鞄は薄そうに見える。僕みたいに、どれが要ることになるかわからないから片っ端から教科書を回収していこうなどと考えることなど、こいつにはありえないのだろう。
ともあれ。
このシチュエーション。
半年前の、初めて羽川と言葉を交わしたときのことを思い出す。
あの日は、去年の三学期の終業式の日だったので、なおさらだった。
あの日――
まぁ、……あの日はいろいろあったが、とにかくあの日の夜に僕は金髪の吸血鬼と出会い、怪異と呼ばれる存在の存在を知ったのだ。
あれが分水嶺だったのは、火を見るより明らかだろう。
それを選び取ったのは僕であり。
後悔なんて、していない。
「あはは。なんだか思い出しちゃうよね。このシチュエーションは」
苦笑しながらいう羽川。
考えることは同じらしい。
遠い目を、過去を慈しむような顔をして、羽川はいった。
「阿良々木くんに私、パンツ見られちゃったんだよねえ」
「それかよ!」
あれだけの大事件があって、吸血鬼やらヴァンパイアハンターやら出てきて、バトルに次ぐバトルがあって、僕は一度死んでお前だって死にかけたりしたのに! 全部ひっくるめて最初に思い出すのが、それかよ!
ぶっちゃけ僕もそうだったけどさあ!
今でもはっきり思い出せるよ!
4ページぐらい語れるよ!
「そういえば、今日はいているのもあの日と同じパンツだったっけ。すごい偶然だね」
そんなことを笑顔で語る羽川に。
僕は驚愕した。
「なんだって?! あの清楚な純白色の、際どい形というわけでもない、布面積数値はむしろ大きいほうだろう。幅も広く、生地も厚いそれである――断じて扇情的ではないし、そういう意味では色気に欠けていると言っていいのかもしれない。しかしそのあまりの白さに僕は眩しささえ憶えた……――アレかっ!」
無理やりセリフを途中で言い切る。
あ、危なかった。
あまりの驚きについまた4ページもパンツの描写に消費してしまうところだった。
そんなことしてみろ、リレー小説仲間に手抜きだと思われてしまうじゃないか。
それほどまでの衝撃だった。
衝撃的事実だった。
いや?
もしかしたらは今のは羽川流のジョークなのだろうか。
考えてみればそうそう偶然は続かない。物が確かめるわけにもいかない下着ならば嘘もつき放題だしな。思えば、羽川は二度目の猫騒ぎを経てから、なんというか、成長した、一皮むけた感があった。きっと大きな困難を乗り越えたためだろう。元から大きかったやつが、さらに大きさを増した感じだ。もう僕なんて比べるべくもない。
だから、そんな期待を持って羽川に再度目を向けてみた。
矮小なものを見る目で見られていた。
すげえダメージだった。
「阿良々木くん。そんな感想を抱いてたんだ……」
「しまった! あの時は思っただけで声には出していなかったんだ!」
「……」
「ごめんなさいっ! 引かないでください!」
「阿良々木くん」
「はい」
「エロスはほどほどにね」
「はい……。ていうかそんなネタまで使いこなせるなんて、お前は本当になんでも知ってるんだな」
「なんでもは知らないよ。知ってることだけ」
いつもの押収だった。
そして僕は反省した。
流れを読んで、今度は羽川が話を切り替えてくる。
「そういえば阿良々木くんは、こんなところで何してたの? 戦場ヶ原さんとは、一緒じゃないみたいだけど」
「ああ、それはな」
思い出す。
終業式が終わって下校が始まってからもう三時間近く経っている。時刻はもうすぐ夕刻だ。自習をしようにも図書館は特別時間割で開いていない。それなのに僕がこんな時間まで残っていたのは、クラスメートにして彼女でもある戦場ヶ原ひたぎを待っていたからだった。
なんでも進路相談だそうだ。
30分で終わるから待っていてと言われて。
何が長引いたのか教室で3時間待たされた。
そして5分くらいトイレにいっていた僕が帰ってくると教室からは戦場ヶ原の荷物が消えていて、『先に変えるから』と書かれた置手紙だけが残されていたのだった。
以上。
おしまい。
そして今にいたる。
「ふ~ん。置き去りにされたんだね」
「声に出していわないでくれ。凹むから」
実際すでにかなり凹んでいる。
お腹と背中がくっつきそうだ。
だからここまでの羽川との会話は意外といい気晴らしになっていた。
けれど、思い出してしまった。
せっかく忘れかけていたのに。
「阿良々木くん。元気出して」
「うん。ありがとう羽川。僕の味方はお前だけだよ」
ありがたい。
本当にいいやつなのだ羽川翼は。
そして、感動に心を震わせている僕の肩を、羽川が楽しそうに叩いて言った。
「そうだ。ここで会ったのも何かの縁だしね。阿良々木くん。私に何かおごってよ」
「いやいやそこまで気を使ってくれなくても……ん?」
私……に?
逆では?
聞き間違いかと羽川の方を見ると、彼女はまた遠い目をしていた。
何を思い出しているのだろうか。
「あの、羽川さん?」
「半年前……パンツ……」
ボソリという羽川。
はっきりいわないところが逆に怖い。
羽川は静かに声のトーンを落として、少し物悲しげな顔になった。
「私……あれがトラウマになってるんだよね。……PTSD? あの日以来、怖くてスカート姿で外を歩きながら三つ編み結ぶのができないんだ……でも阿良々木くん。私にそんな心的後遺症を残しておいて、何も償おうとか考えないんだよね……。私の下着を家に飾っているくせに……それを戦場ヶ原さんには秘密にしているくせに……」
「なんでもおごらせてください翼さま!」
ぼくは絶叫していた。
たくさんあったはずのツッコミどころさえもツッコメないままに。
しかし信じてくれ!
使ってはいないんだ! 決して!
でもこれは言ってしまうと、すごい下種な人間として認定されそうだった。
考えている時点ですでに下種かもしれない。
ていうか、一生阿良々木暦のことを強請れそうな気がするネタだった
「でも羽川さん? 登下校中の寄り道は校則の方で……」
「大丈夫。買うのは阿良々木くんだからね」
「屁理屈じゃんっ!」
いや、マジで一皮向けすぎだろこの人。
いいやつというか、いい性格なやつになっている。
これも成長の証なのだろうか。
こうして、僕は一学期の最終日を終えることになったのだった。
しかし僕は、やはり感じることはなかったのだ。
予感めいたものなど、何一つ。
半年前と同様に。
ここまで半年前と酷似してしまった事態が、いったいなんの啓示なのかなんて。
そして、成長をしていなかった僕は、愚かにも繰り返すことになる。
二度と繰り返すまいと思っていた――
過ちを。
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COMMENT : なんですとー?!
ふふふのふ。あれこそがナギ脳内のアフター羽川でした。ご満足いただけたでしょうか。
ともあれ
そうですか針山さん、まったくもって残念なのです。
ではではなのですが。
ここは先に日原さんにお願いして、様子を見るというのでどうでしょうか。
もしそれでも忙しいままだったら次は僕がやって、八月まえあたりに針山さんに回すのでっ
ともあれ
そうですか針山さん、まったくもって残念なのです。
ではではなのですが。
ここは先に日原さんにお願いして、様子を見るというのでどうでしょうか。
もしそれでも忙しいままだったら次は僕がやって、八月まえあたりに針山さんに回すのでっ