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今年の書き納めになります。
夏から始めたリレー小説もいよいよ後日譚を残すのみ。
今度は『刀語』でやってみっかーとか言い出しそうな口を押さえつつ、最後まで気は引き締めて、いってみましょう今日のお話!

ではでは!


みやこフォックス011!!






 疾走する。
 走駆する。
 奔走する。
 駆抜ける。
 ひた走る。
 足の裏で土を蹴り風を切りながら、僕達は山の中を走っていた。
 宿木先輩は走りづらそうに見える袴姿のままだったが、独自の走法でもあるのか余裕を持って後ろについてきていた。髪留めの鈴が走る度に甲高い音を鳴らしている。八九寺は未だ眼を覚まさず僕に背負われていた。さすがにあの大きなリュックサックは部屋に置いてきたが、それでも子供一人分の重量は決して軽いものではない。
 そして後ろからは、何かが迫ってきていた。
 足音もないし、声も聞こえないが、ただその感覚だけがひしひしと伝わってくる。
 戦場ヶ原の時、僕はそこに現れていたという『蟹』を一切知覚できなかったが、今ならば分かる。それはおそらく、向こうがこっちを見ているから。悪寒を感じ、寒気を覚え、鳥肌が立つ。身体がわけの分からない何かからの恐怖に怯えている反応だった。
 何か――どこにでもいてどこにもいない何かに。
 着いてくる存在に。
 憑いている存在に。
「宿木先輩!」
「い、いったいどこに向かっているんだ阿良々木! 神殿に向かうならそっちじゃない!」
「いいからここは着いてきてください! 以前に来た時に、大体の地形は覚えてます。方向はこっちであってるはずです!」
 叫ぶように言葉を返しながら、途中にあった倒木を飛び越えた。八九寺を落っことさないように注意しつつも速度は緩めない。
「す、す……筋道が見えないぞ阿良々木! こんなことが始まる伏線なんてあったかな?」
「なんで気づくと会話が『しり取り』になってるんですか宿木先輩! 今は遊んでる場合じゃないのですが!」
 まじめな話をしていたのは僕だけだったのか?
「が、が、が……がっはっはっはっ!」
「って無理矢理だなぁオイ! あなたはそんな笑い方するキャラではなかったはずでは!」
「ハン! 分かってるよ阿良々木。こいつは言葉で円環を作って即席の結界を作ってるんだ。移動しながらできるものなんてこんなところだからな。ちゃんと意味も理由もあってやっていることなんだよ。分かったか!」
「か、感服です。まさかそんな理由があったなんて考えもしませんでした」
「たまには尊敬し直しておけよ! ちなみに今の知識は『HOLIC』KC6巻参照!」
「うさんくさ!」
 漫画知識かよ。
 あなたは最近の小学生か。
「さして気にすることでもない。それより話すべきことがあるなら話せ。何かに気がついたんだろう? もしも今の行動が、美少女の青い果実を背中越しに味わっちゃおうなんてためだけにやった短絡的行動だったりしたら私は藁人形に杭打ちごっこに勤しんでやるからな!」
「なんで牛の刻に参ってるんですかあなたは!」
 そんな理由で行動を起こしてたまるか。
 それに僕の場合、身体がアレだからそのプレイに興じている姿なんてまさにアレだ。的確すぎて皮肉にもならない。
 それにロリコンキャラなんぞ同じ話に何人もいたら分かりづらいこと極まりない。
「始めから考えあっての行動ですよ。さっきの先輩の話を聞いて思い至ったんです!」
 とにかく走りながら事情を説明することにした。
 当然『しり取り』でするのも忘れずに!
「すぐに分かることだった。僕達の推測は、始まりの時点で間違っていたんです」
「すぐにって、そんな簡単なことだったのか?」
「簡単ではないけど、間違い自体はほんの小さなものでした。誤りはタイミング――八九寺真宵がどのタイミングでこの事態に関わったかということだけだった……」
 途中で山を囲むように並んでいた黒い鳥居の隙間を横切る。
 ほんの三歩もいらない道幅。螺旋だろうが円環だろうが、横に通れば一瞬だ。
 鳥居の足元を抜ければまたすぐに森に入った。
「ただ僕は自分が途中参加、後から来て巻き込まれた形だったから、てっきり八九寺もそうなのかと思っていました。けどそこが違った。全ての問題が同時に起こったからこそ事態は今に至っているんですよ!」
 全ての問題――
 それは御神体の消失であり、
 それは結界の作動であり、
 それは八九寺真宵の登場だった。
 八九寺は僕のようなストレンジャーではなく、正真正銘のキーパーソンだったのだ。
「よく考えてください。僕達はさっきまで、八九寺に目をつけた狐が無理矢理に神殿を壊したために山の結界が作動したんだと思っていました。けれどそこにはまだ知らなかった情報があった」
 神殿での、事故。
 重要なのはそこだ。
 事件の始まりにして物語の始点。支点ともいえる場所。
 そこに勘違いがあったとすれば。


 もしも――狐が自分から出て行ったのではなく、不慮の事故によって不本意にも神殿から出てしまったのだとすれば!


 それだけのことで、全ての前提は、覆される。
「た、確かにその理屈は分かるが。しかし狐は封印されていたんだぞ。その上我々にまとわりつかれ、力を搾取されてもいた。それだけのことをされて、出たいと思うのは普通ではないか」
「神様ですからね。人の常識なんて通用しませんよ」
 まだ不安があるようだった宿木先輩の言葉に、僕は自分の言葉を被せる。
 神様はとっても適当なんだ。
 というのは、怪異の専門家である忍野の言でもある。
 神様は人間のことなんてどれもいっしょのようにしか見ていない。
 男も女も。
 老いも若きも。
 個人だろうと大勢だろうと。
 区別なんかつけない。つけようとすら考えない。
 神様にとって、人間なんてどれも同じようなものでしかないから。
 だったら崇められようが封じられようが、そんなものどうでもいいと思っているのではないだろうか。ちっぽけな人間の、こまごまとした行動など一々めくじら立てないのではないだろうか。大樹だって、宿木がはりつこうがつくまいが何百年でも悠然と立ち続けているのだから。
 そもそも狐はこの山の神だという。
 ならば居場所へ戻ろうとはしても、ここから出て行こうとする必要はないだろう。
 そしてもしも、そうしようとしていたのなら。
 そうしようとして――できなかったのなら。
「よく分からないぞ阿良々木。どうしてそこにこの美少女が絡んでこられる余地があるんだ。その娘はただの被害者じゃなかったのか」
「加害者ですよ。それも自分がやっていることについて知ることができない、一番やっかいなタイプの加害者だ」
 まぁ全体的に観れば、主犯は宿木先輩で八九寺は共犯って形になる。
「っ」
 背後に迫ってきた気配を感じて、最後のスパートにはいった。
 ここで追いつかれるわけにはいかない。
 まだ、目的地にはついていないのだから。
 走りながら、八九寺が落っこちないように注意する。そのせいでこすれる草木によって、僕の服や身体はたくさん傷ついている。しかし僕の傷ならば、気にするうちに治ってしまう。
 それは阿良々木暦が吸血鬼もどきである所以。
 狐憑きである宿木都子の百発百中の占いもそうだ。
 僕は『鬼』で、先輩は『狐』で、そして八九寺は『蝸牛』だ。
 八九寺真宵は今は昇格して浮遊霊なんぞになっているが、その本質は迷いの怪異だ。
『迷い牛』
 人を迷わせ、惑わせ、彷徨わせる怪異。
 会うだけで、行きたいところには行けなくなる。
 遭うだけで、帰りたいところには帰れなくなる。
「だから、狐は八九寺真宵に憑いてしまったばっかりに帰れなくなった。狐が被害者だったんです!」
 最後は急勾配を一気に上って、しめ縄のまかれた大きな楠木を左によける。
 よけてすぐそこにあった垣根を飛び越えれば、視界は自然と開けた。
 そこは大樹神社の裏手だった。
 本殿前と同様に砂利がしかれ、石畳の向こうにはその場を引き立てるように松の樹が数本並んでいる。その奥に、小さな社が一つ、建っていた。大きさこそ本殿の数分の一ほどしかないが、その分だけ威厳と歴史を感じるつくりをしている。
 ここが神殿にして、御神体を安置していた場所だ。
 宿木先輩の言っていた通り、社の周りには電球の飾りが転がっていた。
「――――阿良々木危ない!」
 足が止まったところを後ろから思い切り突き飛ばされた。
 宿木先輩が身体ごとぶつかってきていたので、衝撃には先輩の重量分の加重があった。元から八九寺を背負っていたところを、そのまま地面に押しつぶされたので、もうしり取りでもなんでもない「ぐぇ」というカエルの潰れたような声を出てしまった。
 そしてその一瞬後――


 ゾオオオオ


 何かが、僕達の頭上を過ぎていった。
「…………」
「…………」
 二人して息を飲んで、黙る。
 気配は、神殿の方へ飛んでいって、そのまま消えた。
 通っていって、帰ってはこなかった。
 息を吐き、安心する。
 どうやら、僕の考えは正しかったらしい。
「おいこら阿良々木。何を一人で納得している」
 説明しやがれ、と僕を下に敷きながら、不機嫌そうな声の宿木先輩だった。
 それもたいしたことではない。
 狐も、狐憑きも、結界も僕は知らない。
 しかし『迷い牛』からの脱し方ならば知っていたというだけの話。
 方法はまだ通ったことのない道を通ることであり、だからここへ至る最短の道は避けて、あえて遠回りになる山道を、道なき道を選んで通ってきた。つまりあの時部屋を飛び出してからここまでの障害物走は、狐を家に送り届けるための進路誘導だったというわけだ。
 などと説明を終えていると、不意に背中で動きを感じた。
 倒れたままに振り返ると、八九寺が眼を覚ましていた。
「はっ! ここはどこですか阿良々木さんっ」
「おお、起きたか八九寺。ってかかなり今更だな。もうほとんど全部終わっちゃってるぞ」
「そうなのですか?」
「そうなのですよ」
 マジで通りすがりの僕よりも緊張感の薄い奴なコイツ。今回の件を振り返ってみれば、そういえば八九寺とは笑い話ばかりやっていた気がする。
「あの~阿良々木さん。とっても疑問なことがあるのですがよろしいのですか?」
「なんだよ。というより先にどいてほしいぞ。重い。さすがの僕も二人分はきつい」
「それなのですが。さっきから後ろから私の胸を弄んでくる二本の手はいったいどちら様のものなのでしょうか……」
「ふふふ。気にするな少女よ。君はもう安全なのだ。私が全力を出して守ってあげたからな。怖かっただろう。さあ私の胸の中で思う存分で泣くといいよ」
「……いいよじゃねーよな! っていうかそれ自分でやるなって言ってたことじゃん! あんたはどんなフォックスワード(嘘吐き)なんだ―――!!」
 一件落着と思わせ一悶着。
 その日の僕の突っ込みは山のふもとまで響き渡ったという。
 なにはともあれ。
 こうして僕にとっては半日、二人にとっては数日にわたって取り込まれていた事件――忍野がいなくなってから僕が関わった最初の怪異は、無事幕を下ろしたのだった。
 犠牲もなく、何かが壊れたこともなかった。
 身体の上で未だ繰り広げられている騒動にため息しながらも、この後に行われるはずの美少女を使うらしい封印のことも今は考えるのを保留して、僕は、とにかくそこだけをよしとすることにした。
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COMMENT : 無題
こんにちは。
お久しぶりです、小雪です。
久しぶりに遊びにきてみると更新されててびっくりでした。
突然居なくなってすいませんでした、予想以上に忙しくて中々執筆することができなくなり、勝手な事をしてすいませんでした。
針山さんのサイトやナギさんのサイトを久しぶりに見て回りました、本当に懐かしかったです。
今は新しい生活となって高也や空乃やなちょともほとんど交流することがなくなっていたので久しぶりに見て楽しかったです。
最近は癒しの西尾作品もほとんど見なくなっている状況で寂しいかぎりです。
これからも応援させていただきます。
またいつかお会いできることを心待ちにしております。

小雪 URL 2008-01-11(Fri)20:46:46
COMMENT : 無題
ういーっすです。
レポート11って鬼ですね。同情しますぜ。

こっちは制限とか全然ないので気楽にやってくださいね。無理ならスルーパスとかもOKっすよ。

ではでは! 針山さんファイト!
ナギ×ナギ 2008-01-09(Wed)17:14:59
COMMENT : 無題
すみません、途中まではできてるんですが、今月テスト6にレポート11個あるので、しばらく待ってもらうか飛ばしてもらっていいですm( )m
すみません
針山 URL 2008-01-09(Wed)13:38:14
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