×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
番外『くつひもケッカイ』と同時に続きも出します。
001,2で僕が書いたときに出した伏線を回収させていただきました。八九寺真宵、再登場です。たぶんこのままいけば009では終わりではないんじゃないかなーと思っています。
では続きは針山さんにお願いすることになっています。
まだまだ書いてくれるメンバーは募集中です。希望者はいつでもご連絡ください。お待ちしておりますっ
ではでは
みやこフォックス005!
001,2で僕が書いたときに出した伏線を回収させていただきました。八九寺真宵、再登場です。たぶんこのままいけば009では終わりではないんじゃないかなーと思っています。
では続きは針山さんにお願いすることになっています。
まだまだ書いてくれるメンバーは募集中です。希望者はいつでもご連絡ください。お待ちしておりますっ
ではでは
みやこフォックス005!
怪異。
怪しくて、異なるもの。
人とは、違うもの。
妖。妖異。妖怪。化物。怪物。怪奇。幽霊。亡霊。魑魅魍魎――――
そんなおかしな世界と僕――阿良々木暦(あららぎ・こよみ)が出遭ったのは、もうずいぶんと昔の事に思える数ヶ月前。高校三年生の春休みのことだった。
科学万能のこの時代。世界中の陸地という陸地は知り尽くされ、神意とも怪奇現象とも言われていた数々の事象が解明され、光によって世界中の知識が結び付けられるようにまでなったこの時代に。
僕は、なんでもない日本の地方都市の片隅で、吸血鬼に襲われたのだ。
血を吸う鬼に。
美しい――鬼に。
今では首元まで伸びた暑苦しい後ろ髪、その下には今も深い深い彼女の噛み跡が残っている。
たいていの物語ならばそういう時に助けてくれるのは、キリスト教の特務部隊だったり、吸血鬼でありながら同族を狩る吸血鬼狩りの吸血鬼だったり、ヴァンパイアハンターとかいう吸血鬼専門の狩人だったりするのだが、僕の場合、それは通りすがりの小汚いおっさんだった。
ともあれ僕はそうして大蒜も杭も恐れず、川の上も気軽に渡れて太陽の下も悠然と歩ける体に戻ったのだけれど、その時の影響というか後遺症で、身体能力は著しく増加したままだったりする。と言ってもこれはほとんど回復力方面においてだけのもので、午前中からずっと階段を上り続けて息切れ一つ起こさなかったのはこれが理由だったりする。
その時に僕を助けてくれたのが、自称こういった怪異の専門家――忍野メメ(おしの・めめ)だった。
萌えキャラのような名に反し、その実態は30過ぎのおっさん。
サイケデリックなアロハ服に、いつも火をつけていない煙草をくわえていた。
僕の恩人にして、この町でいろんな人にとっての恩人になって、そしてフラリと消えていった。
そんな忍野が町にいた当時、陣取っていた学習塾跡の廃ビル。
町での調査だの蒐集だのを行っていた忍野があの場所を自分の陣地と定めた時、そこで最初に縄と釘で建物を囲んでいたことがあった。
結界。
そう忍野は言っていた。
忍野曰く、結界とは元は仏教用語であり仏教僧が修行したりする土地を囲ったりしていたのが始まりなのだとか。けれど同様のもの、つまり囲ったものの内と外を聖と俗に分ける文化や風習は世界中いたるところにあるらしい。
それまで結界というのをバリアーかなんかみたいなものだとばかり思っていた浅学な僕だったが、忍野の説明はそこからもまだ続いた。
なんでも結界の真意とは、まさに読んで字のごとく、界を結ぶことにあるらしい。
異界を現界に持ってきて作り出す。空間から切り取るのではなく、切り取ったところが聖域になる。そこに神が下り、聖性が生まれる。それが結界というものなのだそうだ。
そして区切った事から必然、もう二つの効果が生まれる。
外から入れない事と。
内から出られない事。
招いたもの、内にあるものを逃がさず、脅かさないためには、結界を作るのには厳重で十重二十重に機を織るような細やかな手間が必要なのだそうだ。
だから普通、結界を内から解くというのはとても難しい。
これだけは伝聞ではなく、実体験から言える。
以前、忍野と共にマヌケにも結界に捕らえられてしまった過去からくる、体験だった。
中身を守る堅牢な壁になると同時に、檻の役目を果たす。
それが、結界なのだ。
以上。
そんな感じに、僕は長かった回想話を締めくくった。
「ふむふむ。よく分りました阿良々々(あららら)さん」
「よく分ってくれたのは嬉しいんだけど、僕をそんな慌てた女性の口から思わず出ちゃう声のような名詞で呼ぶんじゃない。僕の名前は阿良々木だ」
「失礼。噛みました」
「おかしな噛み方をするやつだな」
「あいあいあ」
「それは噛み過ぎだ!?」
のっけから飛ばしている八九寺真宵(はちくじ・まよい)だった。
負けてられん。
ともあれ大樹神社(おおぎじんじゃ)での宿木先輩(やどりぎ)との会話を終え、神社を後にした僕はあの黒鳥居の山道においてやはりウロウロしていた八九寺真宵と再会した。僕と別れている間に回収したらしく、さっきはなかったトレードマークの大きなリュックサックは八九寺の背中にあった。
再開してから、もう歩き飽きたという八九寺とともに階段に座し、宿木先輩に聞いたことを話したところだった。
「それにしても……」
さきほどまでの掛け合いとは一転、八九寺がぼやくように口を開いた。
「まさか結界でしたとは」
「ああ、でしたとはなぁ」
でしたとはなんて言うのかなどと思いながらも、僕は八九寺に同意する。
同意というか、同情だったけど。
八九寺真宵は、現在この山一帯にかけられた結界に捕らえられているのだ。
それもその時その場所にいたという不幸な偶然で。
同情の余地は十分にあるだろう。
なんでもそれは大樹神社に元からあったトラップだったらしい。
先代の神主が施した、御神体が境内から出たとき自動的に発動する結界。
それも怪異――人外のものだけを外に出さないための。
宿木先輩の言い分は相変わらず要領を得ないものだったが、そこを解読するのも慣れたもので、僕としては三年ぶりにあの中学の生徒会室での壮絶の一言に尽きる日々を思い出すことができたのだったりする。
「つまりは“メビウスの輪”のようになっているのですね。この空間は」
「へえ。難しい言葉を知ってるんだな八九寺」
僕は本気で感心する。
これまでの話を総括した八九寺の言葉は、まさに的を射た表現だった。
小学生ならではの感覚思考だろう。
細かいところや概念は抜きにして。
ねじれた空間で。
終わりのない空間。
無限回廊。
延々と、永遠に続く黒鳥居の列こそが結界の姿だった。
どこまでもどこまでも伸びて、ゴールとスタートがつながっている。出口もない。だからどこにも出る事ができない。
それがこの結界。
大樹神社名物、『黒鳥巡り』!!
そう、宿木先輩は語っていた。
なぜか自慢げに。
いや、名物にはできないと思うんだけど。
「そんな怪異封じの結界だから八九寺はとっつかまってたわけだな」
「まったくもって憤慨ものです。なんで清廉潔白を旨として生きているこのわたしがこんな不幸に遭わないといけないのでしょうか」
「やっぱ浮遊霊だからじゃね?」
忘れられがちだけど。
たまにはこうして確認しないといけない。
八九寺真宵。
小学五年生。
両親の離婚から父親に育てられ、母の日に母の家を訪ねていってその途上、交通事故で帰らぬ人となった過去を持つ。そしてその後、行き先へたどり着けない蝸牛の怪異となり、僕と出会った時のなんだかんだで地縛霊から浮遊霊にクラスチェンジしたのが今春のことだった。
以上。初心者にも分る八九寺真宵の設定でした。
話は本題へと戻る。
「なんでも来るものは拒まず去るものは逃がさずの蟻地獄のごとき結界らしくてさ。八九寺、お前もちょうど結界が開いている時にこの神社に足を踏み入れちゃうとは運がなかったな」
人事なのでわりとあっさりと結論付けてしまう僕だった。
まあ、それを言えば僕もそうなのだけど。
阿良々木暦は、未だ半分くらいが吸血鬼だ。
半人半妖。
妖混じり。
だから僕も八九寺と同じように結界に捕らわれ、延々ゴールのない回廊を上らされていたのだ。どおりでいくら上っても頂上に着かないはずだ。それに観光客の姿が一切見当たらなかったのも、それが原因だったらしい。八九寺が山道の途中でリュックサックを投げ出しへたり込んでいたのもうなづける。聞けば八九寺はこの結界の中に捕らわれてからもう三日になるのらしかった。
忍野も言っていたように、結界とは界を結ぶもの。
今僕たちがいるのは、結界によって作られた、通常とは位相のずれた異相。
砕いて言えば、異世界のような場所にいるらしい。
話を聞き終え、八九寺はふぅむとうなるような声を出していた。
どうやら自分の中で話を整理しているらしい。
少しして、八九寺が結論を出すように言った。
「ともあれ聞いた限りによると、その宿木ミャン子さんは相当の変わり者のようですね」
「お前に言われた時点であの人も相当にかわいそうに思うけど、僕の先輩をそんな一昔前の萌えキャラのような名前で呼ぶな。僕の先輩の名前は宿木都子(やどりぎ・みやこ)だ」
そしてお前はさっきから何を考えていたんだ。
どこを聞いていた。
本当に僕の話を聞いていたのかこいつ。
不安になったので、テストしてみることにした。
「八九寺。これから僕が出す問題に答えてみろ」
「ほう、このわたしにクイズで挑戦とは恩知らずですね阿良々木さん。わたしはいつ何時誰の挑戦でもうけます。じっちゃんの名に懸けて!」
「いやそこまで気負わなくてもいいんだけどな」
そして恩知らずじゃなく命知らずな。
かっこいいセリフなのに、決まらなかった。
ともあれ出題だ。
「五分の一のケーキと六分の一のケーキと七分の一のケーキを一皿の上に載せました。ケーキ一個を六十秒で食べられる八九寺がそれを全部食べると、お皿にはケーキがいくつ残っているでしょう?」
僕が出したのは数十年前、トラップクイーンと恐れられた天才小学生を苦しめた算数問題だった……というのは大嘘で、問題は八九寺が全部ケーキを食べる事になっているので答えは考えるまでもなくゼロの、ただちゃんと問題を聞いているかどうかを問う問題なのだ。これで八九寺がどの程度人の話を聞いているのかが判明する。
ひっかけに悩むかと思われた八九寺は、なんと無呼吸でそれに即答した。
「分りました。答えは210分の107個です」
「…………、…………」
反応に困る僕。言葉を失う。
本当に計算してるし。
それに合ってるし。
即答? 暗算で?
今、こっそり携帯電話の電卓機能を使っちゃいましたとは口が裂けても言えないけれど。本当の答えとは違うのだけれど。
即座にブブーと言えない心境だった。
しかし言い出したからにはケジメもつけなければならないわけで。
「うう……そのな八九寺。つまりお前はケーキは全部食べちゃったわけで……」
「ふふふん。みなまで言わずともけっこうですよ阿良々木さん。元からあったケーキがそのまま残っているのにはちゃんと理由があるのですよ」
したり顔で言う八九寺。
「ケーキを食べなかった理由、それは……」
八九寺が不適な笑みを作りこちらをじらす。
「……わたしが食えないやつだからですよ」
「うまい事言うなあオイっ!」
思わず叫んでしまった。
だって本当にうまい。
先のフェイントが何よりうまく作用しているのだった。
くそう八九寺真宵。お前は天才肌のキャラクターなのか。
いや、これはただ八九寺がこのクイズを知っていただけとも考えられる。
その希望を確かめるため、気を取り直すためにここは問題を続けるべきだろう。
「では第二問だ八九寺!」
「いくらでも受けてたちましょう。真実はいつも一つです!」
とりあえずかっこつける八九寺だった。
ともあれ出題だ。
次はひねらずこねず正攻法の歴史クイズで。
「ドイツの政治家。国家社会主義ドイツ労働者党党首として民族主義と反ユダヤ主義を掲げ、1933年首相となった。1934年にヒンデンブルク大統領死去に伴い、空席となった大統領を代行兼務し総統と称した。軍事力による領土拡張を進め、第二次世界大戦を引き起こしたが、敗色が濃くなると自殺した。『指導者原理』を唱えて民主主義を無責任な衆愚政治の元凶として退けたため、独裁者の典型とされる人物は誰だ?」
「……阿良々木さんのお父さんですか?」
「アドルフ・ヒトラーだ! 僕のお父さんは普通の会社に勤めるサラリーマンだよ! ていうかそんなとんでもない歴史上の人物が父親だったりしたら僕は大変な事になってるよ! お前は友達の父親がそんなのでもいいのか!」
確かに子供は親を選べないけど。
それでもセーフかアウトかくらいは考えたくなるものだ。
こうなりゃ半ばやけくそで次の問題だ(というか本来の目的を見失っている僕だった)。
「梨、林檎、蜜柑が車の上に乗っていました。急カーブで落ちたのはっ?」
「藤原さんです!」
「誰よそれ!?」
Dの人?
いや、ここで流されてはいかん。
ナゾナゾでだめなら次は地理だ。
「都道府県の中で名前に“島”がつくものを五つ上げよ!」
「五島列島です!」
「県じゃねえよな!?」
列島だ。
でも即座に思いついたのはすごかった。
そこからも問題と回答の押収は続いた。
「虫の王様といえばっ?」
「ムシキングです!」
ゲームだった!
「警察の嫌いな鳥はっ?」
「鳥山明です!」
編集長だった!
「八九寺真宵のスリーサイズはっ?」
「上から99、55、88です!」
新発見だった!
「夏のフルーツといえば……てぇ、さりげにあからさまな嘘を混ぜてんじゃねえよっ! いつからお前は峰富士子級のナイスバディになったんだこの並盛り小学生がっ!」
「な、並盛り! 傷つきました! わたしひどく傷つきましたっ! 阿良々木さんを名誉毀損で訴えます! 次に会う時は校庭ですから!」
「運動会で決着をつけようというのか!?」
確かに運動会のシーズンではあるけれど。
たぶん法廷の間違い。
次に会う時は法廷です。
いやまあ聞いた僕も僕なんだけどね。
なんかノリで。
とにかく八九寺の鋭い切り返しを聞く限りどうやら話はちゃんと聞いていることがわかった。それだけのことを確かめるのにずいぶんと長々やってしまった気がする。でも楽しかったのでさほど損した気分にもならないのだった。
僕ってけっこう単純なのかもしれない。
小学五年生並か。
なにはともあれ閑話休題だ。
ここらで話を本題に戻すことにした。
大樹神社で事情を聞かされた後、僕は宿木先輩の御神体探しの手伝いをすることを言い出していた。
けれど結界の話を聞いて八九寺の山道での姿を思い出し、先にこいつを回収して外に出してやることを考えたのだ。先輩にも友達の浮遊霊なんですと説明すれば、たぶん僕の時のように結界の隙間やらから八九寺を出してくれることだろう。
だからまずはこのまま宿木先輩と合流しないといけない。
あの人もこの無限回廊になっている結界を捜索中のはずだから、山道を歩いていればいずれ出会えるだろう。
そろそろ休憩も十分とった。
また階段を上るとしよう。
そのことを言い出そうとしていた矢先。
カラーン
と。
覚えのある音が、聞こえた。
音がしたのは、またも背後。
背後にして、十段近く上の階段。
振り向き見上げれば、そこには見覚えのある女性が立っていた。
鈴のついた紐で縛った長いポニーティルに、色鮮やかな巫女服。
それは先とまったく同じ登場の仕方。
けれど、その表情は幾分違っていた。
しかしその違いもはっきりと感じ取ることはできず、今度は逃げないように八九寺の手を握りながら、僕は話しかけた。
普通に。
さっきの時のように。
三年前の、ように。
「あ、宿木先輩っ。こいつはなんか結界の中に迷い込んじゃったみたいで……」
「ご苦労だったな――阿良々木」
僕の言葉をさえぎるように、宿木先輩は言った。
その言葉は、中学時代に何度も聞かされたものだった。
しかし――何かが――違う。
なんだ?
宿木先輩は続ける。
けれどそれは僕に向けられたものではなかった。
僕の後ろ。
そこに隠れるように立っている。
八九寺真宵に向けての、ものだった。
「ようやく見つけたぞ」
カラーン。
「殺生石」
PR
この記事にコメントする
